TOP > 奨励賞 > / Update: 2004.1.3

2002年度図書館研究奨励賞について

図書館研究奨励賞選考委員会
委員長 伊藤昭治


 今年度(2002年度)は,宮崎真紀子氏の書かれた「戦前期の図書館における婦人室について−読書する女性を図書館はどう迎えたか−」(『図書館界』第53巻4号)を奨励賞佳作に推すことに決めました。

 この論文は戦前の図書館が婦人室を設けていたことに着目し,図書館はその利用者である女性に対して,どう対応したかを考察したものです。
 宮崎氏も述べておられるように「婦人室」についての先行研究は,同時代においても,またその後においてもありません。それだけに宮崎氏の研究はこれからの図書館史に新たな分野を加えたものとしてユニークであり評価できます。

 ただ記述の中で「年齢,もしくは社会における役割といったもので利用者を分けた部屋は今でもあるが,男女という性によって分けられた部屋は,戦後の公共図書館の中では少なくとも表面に表れない」と述べていますがこれは調査不足です。
 当地,神戸市においても『神戸市立図書館60年史』を見ていただければわかるように,昭和43年に建設した新館にも婦人閲覧室を設けております。また座席を男女で区切るようなことは,戦後の各地の図書館にあったことを知っています。
 公共図書館では女性利用者をどう見ていたかについても,「いかに利用者を図書館に呼びよせるかという発想で,婦人室はそのための手段であった」と書かれていますが,そんなきれいごとではなかったように思います。図書館が政策的に利用者を増やそうとしていなかったことは図書館発展の過程をみれば判ることですし,もっと別の見方,たとえば風紀的な事柄でなかったかと,私は当時をふり返って感じております。
 歴史研究には,現時点からする明確な問題意識が必要であり,単に歴史事実の掘りおこしだけでは不十分です。特にこうした問題の全体像を把握するには,文献だけではむつかしいし,時には正確でない場合が多いように思います。また古い図書館員からの聞き取り調査などもこのテーマには有効ではないでしょうか。

 以上,いろいろな問題点もありますが,図書館界ではあまり取りあげられなかった未知の分野への取りくみであり,評価すべきだとの意見が多く,奨励賞佳作を贈ることにしました。

(この報告は『図書館界』55巻1号に掲載)