TOP > 奨励賞 > / Update: 2011.5.1

2010年度図書館研究奨励賞について

受賞者:木川田朱美氏

図書館研究奨励賞選考委員会

(川崎良孝,塩見 昇,志保田務,松井純子,山本順一)


 今年度の図書館研究奨励賞の選考もまた,会員に開かれた手続きで進めました。会員からの推薦を考慮に入れつつ,選考委員5名が慎重に検討し,今年度は,国立国会図書館におけるポルノグラフィの納本状況(本誌61巻4号,2009.11,p.234−44)を授賞論文と決定し,相愛大学で開催された研究大会の初日2011年2月19日に,著者の木川田朱美さんに対して,川崎良孝理事長から賞状と副賞の10万円が贈られました。

 選考の過程と授賞理由を記しておきます。今回は,すでに会員にお知らせしましたように10本の論稿を候補として掲げました。うち1本は著者が会費未納で選外に。9本のなかから選んだわけですが,理事会などの場で問題とされたのは,形式が共著論文だったことです。この賞の趣旨は,図書館情報学の若手研究者,図書館現場などの中堅・新進気鋭の職員を励まし,育っていただくためのものですから,原則として若手(イコール年齢ではありません)単独を対象とするべきで,教員との共著(の形式)は望ましくない,との意見が強かったのです。一方で,大学等の研究機関では,外部資金獲得の要請,学際的ないしは広汎かつ難度の高い研究テーマへの取り組みなどから,共同研究が常態となっている部分があります。理工系の研究開発活動では,多くの人たちがかかわるのが普通です。いろいろ議論が出たのですが,学部の卒業研究や修士論文,学位論文をもとにしたり,それにつながる原稿について,今後『図書館界』に投稿される場合には,教員が学生や院生に対して「大きく育て!!」とアドバイスしたりサポートしたりするのは,ある意味で当然の教育サービスでもありますから,できるだけ学生,院生の単著論文として投稿してください。

 木川田論文は,国立国会図書館法の定めからゆけば,国内で出版された,少なくとも商業出版はすべて納本の義務が課され,全国書誌(データベース)に収載され,国立国会図書館が所蔵しているはずという建前に対して,いわゆるポルノはどうだろうとの疑問に発し,調査研究に取り組んだところに,まずオリジナリティが認められます。アマゾンの販売書誌データベースとNDL‐OPACを突き合わせ,他の主題分野と異なり,ポルノ分野の出版物の多くがNDL‐OPACに漏れていることを発見されたのです。この発見された事実が生まれる構造を明らかにすべく,国立国会図書館の担当者に聴き取り調査をし,また対象となったポルノ出版社に調査をしようとされましたが,裁判に巻き込まれた1社から回答のメールをもらっただけで,当該出版社はとりあってくれなかったとのことです。いかにもこの国らしいと思います。関係する制度等に対する検討もなされ,論理の展開もそれなりに緻密で,綻びがないように思われます。この手堅い構成も,授賞理由の大きな部分を占めています。

 授賞された木川田さんが,卒業論文としてこのテーマに一生懸命に取り組んでいたとき,このポルノ調査研究を理由として,つき合われていたボーイフレンドに振られたとの告白には驚くとともに,生物的増殖を運命付けられ,そこに合理性が備わった自然的行動が不可避のはずの存在が内部の欲望の事実に眼を背け,それを肯定することを躊躇するようなオトコについては,「振られてよかったね。奨励賞のほうがはるかに価値がある」と励ましてあげたくなりました。木川田さんのこれからの研究に大いに期待いたします。(この最後の部分は,山本だけの意見で,他の4名は一切関係ありません。)

(文責:山本順一 桃山学院大学)

(この報告は『図書館界』63巻1号に掲載)