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日本図書館研究会研究例会(第247回)報告


日時:
2007年9月28日(金) 19:00〜21:30
会場:
乃村工藝社大阪事業所情報資料室
発表者 :
石川 敦子(乃村工藝社情報資料室)
テーマ :
小さな企業内資料室だから出来た事
参加者:
6名

 ディスプレイ・空間プロデュース等に幅広い実績を持つ乃村工藝社の事業を支える情報資料室の資料とサービスについて、システムデモも交えて発表された。あわせて見学・資料閲覧の配慮もいただいた。

1.情報資料室の概要

 東京本社と大阪事業所の双方に「情報資料ルーム」を持っている。大阪事業所では書籍約18,600点、雑誌約13,800点等の資料を持ち、デザイン・営業等の社員にサービスを行っている。図書室・閲覧室等247uのスペースを持ち、社員3名で管理を行っている。東京本社もほぼ同規模(若干大阪のほうが大きい)である。

 貸出等の利用サービスや各種データベースサービスは、基本的にイントラネット上で運用・提供されている。システムは既製品ではなく、必要に応じてシステム担当者が作成・保守を行っている。データベース作成は1980年代半ばから行われ、情報環境の進展に応じて数次のシステム切り替えを経て現在にいたっている。

2.「実績資料」に関わるサービス

 この業種では、受注をめざす物件の「類似実績」データが営業上きわめて重要で、これに関わるレファレンス依頼も多い。そこで、社内から竣工写真を収集してデータベース化している。施設名称・種類・受注等の時期・関係者氏名などからなる詳細なデータを作成するとともに、入力データが生かせる多角的な検索システムを提供している。定型項目以外に、レファレンス実績等から検索対象としたほうがよい語(特定の材料など)をキャプション情報として入力している。また、特定物件に関わる情報をビジュアルな一枚ものにデザインした「セールスツール」も情報資料室で作成している。

3.図書・雑誌資料等に関わるサービス

 図書・雑誌は簡略な分類を行って、開架書架に排列している。建築・デザイン関係が多くを占めるのは当然であるが、他の分野もビジュアル性の高い資料が比較的多いのが特徴である。目録データベースを整備し、閲覧・貸出等もオンラインで処理している。

 利用の多くは、非常に特定的な事項の画像や説明を求めるものであり、例えば図書のタイトルレベルの情報では全く役に立たない。そこで、建築雑誌については、物件レベルの詳細入力を行い、施設名や設計者等から確実に探せるようにしている。また、図書や一般雑誌においても、資料全体を精査して内容情報を詳細に入力し、資料の一部分を対象とした検索を可能にしている。

 入力作業は大阪・東京の双方で行っており、重複資料についてはISBNや発行日付をキーにして先行入力分が利用できる仕組みとなっている。内容情報の入力は目次の一定レベルに従うといった機械的なものではなく、社員が何を必要とするのかという想像力を働かせて行っており、レファレンス経験に裏打ちされたものである。大阪では3名で入力作業を行っているが、必ず複数人が目を通してデータの均質化をはかるようにしている。

 イントラネット上では、目録検索とともに新着資料情報などを提供し、レファレンス記録は東西ルーム内で共有している。また、大阪独自のサービスとして、業界新聞のクリッピングデータベースを構築・提供している。年間約7,000記事をクリッピングしているが、これもレファレンス経験を土台に記事選択を行っている。

4.「博覧会資料」に関わるサービス

 社内業務向けとはやや性格を異にする所蔵資料として、「博覧会資料」コレクションがある。この分野では日本有数のコレクターであった寺下勍氏からの寄贈資料を中核とし、その後も乃村工藝社により追加をはかっているコレクションである。明治期以降に日本で開催された博覧会について、公式記録・ポスター・絵葉書・入場券等からグッズなどまで、極めて多様な資料から成り、稀少なものも多い。本コレクションは、研究者を中心に一般利用にも応じている。また資料室では、数ヶ月ごとに全国から研究者が集まって開催される「博覧会文化史研究会」の事務局も担当している。

 寺下氏からの寄贈後、資料整理とともに電子画像の作成とデータベース化をはかり、「博覧会資料データベース」を構築した。社のWWWサイト上で検索・閲覧を可能とし、一般開放している。「博覧会単位」「資料単位」の検索が行えるシステムである。

5.まとめなど

 石川氏は発表の最後に、「小さな企業内資料室だから出来た事」として、利用者の「顔がわかる」関係の中で細かなニーズに対応してきたこと、イントラネットを通じてエンドユーザが情報収集可能なシステムを内部開発してきたこと、を挙げられた。一方で、全ての実績資料が収集できていないこと、サービス内容の周知が全社に徹底しているとはいえないこと、などを課題とされた。

 発表には、システム構築を主導された高成河氏も同席下さり、石川氏とともに参加者からの活発な質問に丁寧な回答をいただいた。以下は記録者の感想になるが、特徴ある収集資料とそれを活かす社内データベースを現地で実際に体験するとともに、それらの必要性や設計思想を非常に具体的に語っていただいた、有意義な例会であった。石川氏らスタッフの資料室サービスに関する姿勢、レファレンス経験と密接に連動したデータベース設計の思想、博覧会資料に関する社会的使命の認識、等は非常に明快で、専門図書館という枠にとどまらず全ての図書館ないしは司書に共有できるものである。そして、そうした理念をストレートに実践に体現させてしまう意志とフットワークもまた、学ぶべきものと感じられた。

参考:博覧会資料コレクション

(記録文責:渡邊隆弘)