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日本図書館研究会研究例会(第261回)報告


日時:
2009年4月14日(火))19:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター
発表者 :
古賀崇氏(京都大学附属図書館研究開発室)
テーマ :
図書館とアーカイブズをいかに「つなぐ」か−今後の研究と実践のために
参加者:
19名

 本発表では、日本のアーカイブズ・文書館をめぐる近年の動向を踏まえ、図書館とアーカイブズとの接点がどのようなところにあるか、またどのような点でお互い「学び合う」べきか、を論じた。

1. 日本のアーカイブズ・文書館をめぐる近年の動向

 日本では2003年の内閣官房長官傘下の研究会設置を契機に、公文書管理体制の強化や国立公文書館の充実に向けた動きが進展してきた。これは福田康夫前首相(2003年当時の内閣官房長官)を中心とした「政策的トップダウン」に依るものと言える。福田氏の首相就任後はその動きがさらに加速し、公文書管理担当大臣職の新設、政府の有識者会議による公文書管理の法制化への提言などが成された。現在の麻生内閣のもとで、2009年3月に公文書管理法案が閣議決定を経て国会に提出されたが、法案への批判も野党議員や市民団体などから多く出されており、また政治状況の不安定さもあって今国会で成立をみるかどうかは不透明な状況にある。

 この動きと並行して、アーカイブズをめぐる研究や専門職(アーキビスト)養成をめぐる動向も活発化している。2004年には日本アーカイブズ学会が設立され、多方面での研究活動を支えていると同時に、専門職養成に向けた議論も行っている。この養成の制度化にはまだ至っていないものの、学習院大学は大学院レベルで、別府大学は学部レベルで、専門職養成をうたうコースを開設している。あわせて、国立公文書館が中心となってアーカイブズの領域での国際交流・発信への取り組みも活性化が成されている。

 施設・組織としてのアーカイブズないし文書館に関しては、自治体や大学での設立の動きも盛んであるが、「新しいアーカイブズ」をめぐる動向にも注目しておきたい。これは文化関連の資料の収集・整理・保存に関する取り組みが近年、「アーカイブ(ズ)」の名のもとに各方面で成されている、ということである。具体的には日本脚本アーカイブズ、歴史的音盤アーカイブ推進協議会、テレビCM等に関するアーカイブの研究プロジェクト(京都精華大学など)といった取り組みが挙げられる。

2. 図書館とアーカイブズとの接点

 近年のMLA(博物館・図書館・文書館)連携に関する研究・政策の動きも踏まえつつ、L・Aについては以下のような接点が考えられる。

(1) 政府情報アクセス面:
電子化とインターネットの影響により、図書館と公文書館の従来の役割分担は不明確となりつつある。つまり、あらかじめウェブ上で発信されるコンテンツ(白書、広報、各種データベースなど)や、もともと内部の資料・文書だったが時間の経過により公開されるもの(「デジタル・アーカイブ」の形態含め)の保存・管理について、図書館・公文書館でどのような役割分担や連携を行うべきかは国際的に見ても議論の途上にある。
(2) 地方史・地域サービスの面:
これは(1)と重なる面もあるが、特に欧米圏では個人、家族、民族レベルでの「ルーツ(祖先)」探しに関わる家系学(genealogy)に関して、図書館とアーカイブズの連携が進んでいる、という点に注意を要する。カナダで国立図書館と国立公文書館が2004年に合併したのも、家系学に関する業務やサービスについて図書館・公文書館の連携が成り立っていた、というのが要因のひとつであった。
(3) 資料組織の面:
一般的目録規則(ISAD(G))などアーカイブズでの資料組織に関する国際規則は、図書館の領域のものから大きく影響を受けている。また近年ではM・L・Aそれぞれの資料を横断検索するシステム開発に関心が高まっており、それぞれの領域におけるメタデータ基準や、各記述要素をつなぐためのマッピング、クロスウォークといった仕組みについても各国で開発・実装が試みられている。

 これらを踏まえ、図書館とアーカイブズとの間ではどのレベルで―資料の保存、資料の組織化、検索システム構築、人的サービス、トップレベルの方針・政策など―接点や連携の可能性があるかを見極める必要がある。

3. アーカイブズをめぐる今後の課題

 2.で挙げたことに加えて、以下のような課題を掲げておきたい。特に(4)(5)については、図書館の領域での議論・実践の蓄積が大いに参考になるはずである。

(4) アーカイブズ理論の弱点の克服:
田窪直規教授の指摘の通り、アーカイブズの理論は国際的に見ても実証の裏付けなく進められているきらいがある。特に「どの資料・文書を残し、捨てるか」に関する「評価・選別」については、「どのような種類の資料が実際にアーカイブズで使われているか」といったデータの実証的分析を考慮に入れるべきではなかろうか。
(5) 統計・評価の枠組みの構築:
図書館における国際的な統計・パフォーマンス指標に相当するものが、実はアーカイブズの領域には存在していない。「自分たちの活動を客観的に計るための尺度が欲しい」という声は国内のアーカイブズ関係者からも挙がっている。
(6) 研究・情報資源の包括的な把握・管理・保存:
これは発表者の勤務先とも密接に関わる課題であるが、大学・研究機関には研究成果としての論文・図書等だけではなく、大学等の運営のための事務文書や、研究に用いるデータ・資料・試料など幅広い「研究・情報資源」が存在する。これらについてデジタル化の影響も考慮しつつ、M・L・Aなどの組織がどのような役割分担・連携をとる必要があるか、議論と実践を進める必要がある。

4. 発表を終えて

 今回の研究例会では、まさにM・L・Aにまたがる多彩な方々にお越し下さったのが、発表者としては何よりの喜びであった。質疑でも各領域の関心を反映した活発な議論が成され、また「行政評価や市場化テストへの対応」など公立図書館・公文書館の厳しい現状も提示された。さらに「MLA連携を考えるためには人のつながりが何より必要」という意見もあり、発表者も大いに同意する。今後も実りある研究・実践に向けて、「人のつながり」を意識した活動を心がけていきたい。

 なお、当日の発表資料は京都大学学術情報リポジトリ「KURENAI」に掲載している(http://hdl.handle.net/2433/72813)ので、ご参照下されば幸いである。

(記録文責:古賀崇)