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日本図書館研究会研究例会(第278回)報告


日時:
2011年3月12日(土)14:00〜16:00
会場:
大阪府立中之島図書館 ふれあいルーム
発表者 :
大平 睦美氏(堺市教育委員会)
テーマ :
オーストラリアの学校図書館−シドニー・ブリスベンの学校図書館視察報告
参加者:
8名

 2010年8月22日より29日までの8日間,全国学校図書館協議会海外視察に参加した。視察場所はオーストラリア西海岸,クイーンズランド州都ブリスベン市とニューサウスウェールズ州シドニー市である。8日間(移動日を含めて)で学校図書館を中心に19か所を視察した。
 視察の目的は,次のとおりである。

1.オーストラリアの教育制度

 オーストラリアの学校数は,約1万校(公立学校60%,私立学校40%)。  オーストラリアの義務教育は6歳〜15歳(タスマニア州は16歳まで)である。義務教育ではないが,就学前に準備学年(Preparatory year)がある。  小学校1〜6年生(クイーンズランド州は7年生まで),中学校(ジュニアセカンダリー)7(または8)〜10年生,高等学校(シニアセカンダリー)11〜12年生である。  中学校を卒業後,大学,専門学校に進学,または就職を希望する。大学受験はないが,12年生の後半に州による統一試験があり,統一試験の結果と,高等学校における成績によって大学の合否が決まる。

2.クイーンズランド州ブリスベン市の学校図書館

 クイーンズランド州(以下QLD)ブリスベン市では,9校(公立4校,私立5校)の学校図書館と1大学図書館,2公共図書館を視察した。公立学校の学校図書館は,いずれも新設,改築直後または改築中であった。新しい学校図書館が意図的に選ばれたのかと考え尋ねたところ,2009年に州政府がICTを用いた教育環境を整えるための補助金を出す決定を受け,各学校はそれを利用し,学校図書館をICT教育の拠点と位置付けて,新築または増改築を申請しているとのことであった。  新しい学校図書館は利用者のニーズを考え,ICTを活用する環境が整えられた造りであった。また,日本とは国土面積が違うため学校の敷地面積が広く,学校図書館も開放的な印象である。

3.ニューサウスウェールズ州の学校図書館

 ニューサウスウェールズ州では3校(公立2校 私立1校)の学校図書館,大学図書館,市立図書館,州立図書館,州立美術館を視察した。設備としては新設,増改築に補助金を出していたQLD州に比べるとやや旧式な学校図書館の印象であったが,QLD州の学校図書館と同様に日本の公立学校に比べると,広く開放的な印象を受けた。

4.公立学校と私立学校

 公立学校に比べて,私立学校の図書館は設備,図書メディア資料の豊富さや人の配置に恵まれた環境にある。公立学校は児童生徒数によって司書教諭の配置が決められており,小規模な学校では司書教諭は毎日常駐しているのではなく,一人の司書教諭が複数校を担当している。私立学校では,司書教諭や司書が複数人配置されており,ボランティアで保護者(親たちは多忙であるため,時間に余裕のある祖父母がボランティアとして参加していることもある)が図書館の整備をしている学校もあった。また,私立学校では学校図書館を学校教育の中心ととらえ,図書館内または隣接した場所にラーニングルーム,グループ学習用の教室やシアターが設置されていた。設備ばかりでなく充実した人の配置が行われているため,常時開館しており,授業に応じて学校図書館が組みいれられている。児童生徒,教員は授業以外にも必要に応じて随時利用できる。

5.学校図書館と司書教諭

 Australia Library and Information Association(以下ALIA)によると,学校図書館を学校における情報サービスセンターとして,以下の5つの機能を包含した役割を担うとしている。  司書教諭についても「Standards of professional excellence for teacher librarians」の中で,「司書教諭は学校のビジョンを支持し,有効な情報サービスと図書館経営,生涯学習者の発展を提案し実行する」のであり,主たる役割としては「カリキュラムのリーダー,情報のスペシャリスト,情報サービスのマネージャー」であるとしている。日本における司書教諭というよりは,学校の管理職として学校教育で学校図書館の有効活用をコーディネートするカリキュラムのマネージャーのような役割をしている。そのため,直接児童生徒に指導するのではなく,教員に対し研修等を行い学校図書館や情報リテラシーやICT機器の活用を指導し,また個々の授業についても教員にアドバイスを行っていた。そのことにより,学校図書館を利用している児童生徒を利用者として見るにとどまらず,学校のカリキュラム全体を見渡すことで,学校図書館のメディア資料を学校全体に開かれたものとしている印象を受けた。  今回視察した私立の学校では,図書館スタッフが複数名配置されており,司書教諭も図書資料を専門とする司書教諭と,ICTを専門とする司書教諭が配置されており,専門性の高い活用が可能である。

6.州政府の学校図書館への取組

 オーストラリアの学校図書館を取り巻く環境は,決して恵まれたものではない。公立学校では児童生徒数によって一人の司書教諭が何校かを兼務している例は,先にも述べたとおりである。異なっているのは,教育行政を行う州政府が学校図書館をICT教育の中枢と位置付け,州の教育目標として環境整備に取り組んでいることである。利用可能な設備が整うことにより,そこにいる児童生徒や教員の意識が変化し,学校図書館基準が具体化されていた。QLDでは州立図書館が中心的な役割を果たして学校図書館を支援し,NSWは州の教育庁を中心として学校図書館を支援しているのが特徴的であった。

参考文献

1)Library Information Management System. Information and Knowledge Strategic Plan 2010‐2014, QLD, 2009, p.5.
2)Department of Education and Training Strategic Plan 2010‐2014.
3)Specialist Teacher Action. Information skills in the school, NSW, p.15.
4)Teacher Librarian Action. ibid., p.16.
5)School Library Action. ibid., p.17.
6)Australian Library and Information Association. 〈http://www.alia.org.〉

(文責:大平睦美)