TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2011年度 > / Update: 2011.7.19

日本図書館研究会研究例会(第279回)報告


日時:
2011年4月9日(土)14:00〜16:00
会場:
大阪市立難波市民学習センター
発表者 :
鎌田 均氏(アリゾナ大学図書館日本研究司書)
テーマ :
図書館のサービス空間 : アメリカにおける大学図書館サービス
参加者:
17名

 図書館サービスを提供する空間として,オンライン,インターネット上でサービスを提供する空間と,場所としての図書館内で提供されるサービスという二つの視点から,現在のアメリカ大学図書館のサービスについて,アリゾナ大学,アリゾナ州立大学などの事例を紹介し,検証した。

 以前から大学図書館は図書館ウェブサイトを運営し,そこから図書館サービスに関する情報,オンライン図書館目録,またそのほかのオンラインデータベース,主題別パスファインダー等を提供しているが,現在ではさらに図書の予約,貸出図書の更新,新着図書の案内,相互貸借資料のメールによる配信,電子コースリザーブ等,さまざまなサービス・手続きをオンラインで利用者が自分で利用できるようになり,利用者が資料,サービスを利用するために図書館を訪れる必要を減少させている。そして,レファレンスサービス,利用者教育も同様に,オンラインまたはクラスルーム等,図書館を離れた場所で行う傾向が強まっていることを紹介した。

 こうした多種多様なサービスを利用者により使いやすい環境で提供するためには,図書館ウェブサイトの効果的なデザインが重要であり,ウェブサイトデザインの利用者を使った実験による評価,それに基づいた改善を行ったケースを紹介した。また,すでによく知られているLibGuidesという図書館向けウェブサイトプラットフォームを導入し,主題別パスファインダー,その他のコンテンツをよりフレキシブルに,連動的に,利用者に提供している大学図書館も多い。

 そして資料検索の分野ではWorldCat Local, Summonなどの商品を導入して,図書館所蔵の資料だけでなく,より広範な資料を横断的に検索できるオンライン検索サービスを利用者に提供するとともに,Patron‐Driven Acquisitionなどと呼ばれる多数の電子書籍を利用者に公開し,利用者が実際に利用した資料のみを購入するなどの試みについて説明した。

 一方で,図書館の建物内において,以前から24時間開館,図書館内カフェなどのさまざまなサービスが提供されている例を紹介した。日本ではラーニングコモンズと呼ばれている施設の学生利用は依然として多いが,もともとはコンピュータ端末を多く配置していたこの施設に対し,グループ学習室の増設,大学内ワイヤレスネットワークの普及によるノートパソコンを利用する学生の増加とそのための学習スペースの提供などのニーズから,よりフレキシブルな空間への改造が必要となっていることを述べた。これに関連して,図書館内学習スペースへのニーズの増大が書架スペースを圧迫し,資料構築,管理に影響を与えているケースも指摘した。

 さまざまなサービス,電子資料がオンライン上で提供される一方で,学生は依然として図書館を訪れ,ラーニングコモンズなどの空間を学習スペースとして利用しているが,場所としての図書館を利用している学生が,どの程度図書館の提供するサービス,資料を利用して勉学に役立てているかは定かではない現状がある。この二つのサービス空間を効果的につなげるものとして,図書館が情報リテラシー教育を大学の教育カリキュラムにより融合させ,利用者と図書館の場にとらわれない形で,接点を作っていく努力がより重要になりえることを指摘した。

(記録文責:鎌田均)