TOP > 大会・研究会等 > 研究例会 > 2011年度 > / Update: 2012.3.4

日本図書館研究会特別研究例会報告


日時:
2011年5月29日(日)10:45〜12:15
会場:
大阪市立中央図書館 5階会議室
発表者 :
松岡 要氏(日本図書館協会事務局長)
テーマ :
図書館の公契約基準の提起−図書館員の専門性蓄積と雇用安定のために
参加者:
47名

 2011年度の特別研究例会(第280回研究例会)は,上記のとおり「図書館の公契約基準の提起」をメイン・テーマとした。この「基準の提起」は2009年度に日本図書館協会(JLA)が行った(「図書館事業の公契約基準について」は2010年9月発表,2011年3月改定)。図書館の運営形態の多様化のなか,図書館員の雇用安定と管理運営について,委託・受託する双方が遵守すべき基準を示し,図書館事業の健全な進展を図る目的に立つもので,松岡氏は,JLA事務局長として同提起の中心であった。松岡氏は,すべての館種の図書館職員の雇用実態を近年サーベイし,とりわけ公立図書館司書(補),学校司書の専門性蓄積と雇用安定を保障することの必要性を再確認した。そのためには図書館の公契約基準が必要であるとして提起したものを披露し,その周知を図ろうとする趣旨の報告であった。現状打開への一道筋を示すもので,今後の進展に期待を導くご発表であった。

 今号ではそのうち,専門職員問題について松岡氏よりご報告を頂いた。

(阪上宏一 枚方市立中央図書館)


図書館の直接雇用の専門職員問題について

 特別研究例会では「図書館の公契約基準の提起−図書館員の専門性蓄積と雇用安定のために」と題して報告させていただいた。図書館現場に広がっている派遣職員の雇用問題,および業務委託や管理者を指定する自治体と受託する企業の両者が遵守すべき問題について,日本図書館協会が「公契約」の面から提起した内容と意義について主として述べた。このことについてはこの間種々説明してきたので,紙幅の関係で,ここでは後半に述べた直接雇用の専門職員制度の問題について記すことをお許しいただきたい。

 図書館専門職員の制度化は,その専門性の蓄積を可能とするために,任期の定めがない安定雇用,および合理的な理由もなく他部局に異動させることのない人事管理が要件となる。しかしこれは近年,とりわけ「構造改革」の政策が推し進められるなか,かなり崩されており,さらに非常勤,臨時などの有期雇用職員が6割を超える実態と相俟って,声高に主張することを困難にしている。

 あえて副題を挙げたのは,この問題についての現状を改めて提起し,追究すべき課題として捉えていただきたいと考えたからである。

1.職名廃止の動き−専門職員制度の廃止

 公立図書館職員を例として挙げれば,司書職制度とは,採用された“司書となる資格を有する者”に職名「司書」を発令することを基本とするものである。その職名設置の根拠には地方公務員法第23条第4項「人事委員会は,職員の職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて分類整理しなければならない」があると考えられる。この条文は「職階制の根本基準」を定めたものであるが,責任の度合いを給与に反映させた職級のほかに,職務の種類としての職種が考えられている。

 国家公務員の場合であるが,“「司書」職種及び職級”が1951年人事院公示された(その内容は,日本図書館研究会監修,天野敬太郎編『図書館総覧』1951年に掲載されている)。職階制は戦後,近代公務員制度の要として検討され,国家公務員法,地方公務員法に採り入れられた。ところが実施に至らず,1982年には臨調が廃止を答申する状況にもなり,2009年には「国家公務員の職階制に関する法律」が廃止された。地方公務員法の上記条文については,2009年の国会に上程された改正案は「人事評価の根本基準」に変えられ,まったく性格を異にするものとなっている。この改正案は,なぜか審議もされず廃案のままとなっている。

 この条文の廃止は,自治体における職種名の廃止に繋がるものとして懸念を抱く。昨今,職名規則をもち,司書となる資格を要件に採用しておきながら,「司書」を発令しない自治体が少なくない実態をみる。学校図書館に行政事務職としての「学校司書」を置くことが追求されているが,安定的継続的に学校図書館業務に専念できるためには,職種名として「学校司書」は欠かせないが,それにも関わることである。

 自治体の専門職が担っていた専門業務は近年,外部化が著しいが,法改正はそれを裏付けようとするものとして捉えざるを得ない。

2.異動の常態化−経歴管理システム

 この法改正に異論を唱えるとともに,同法第17条(任命の方法)を遵守し,他の職種への転任を認めないことが必要である。同条は職名を異にする転任については基本的に了とせず,慎重な扱いを求めている。

 ところが例えば1997年自治省「地方自治・新時代における人材育成基本方針策定指針」が示した「経歴管理システム」の導入によりジョブ・ローテーションを常態とする人事管理が行われている。これは80年代後半から自治省が事実上指導してきた手法であるが,これにより公的な指針となった。

 これは行政事務に長けた職員育成にとって有効かもしれないが,専門職員にとっては,その専門性の蓄積に妨げとなるものである。中軸となっていた司書が不在となり,業務委託への抵抗力が減じる事態も見受けられる。司書職制度のある自治体においても,「局間異動」に異を唱えることが出来ないなど,17条の適正な運用が求めにくくなっている。

 以上の正規雇用の図書館職員についての人事は,本来自治体が制度化すべきであるが,三位一体の改革もあって極めて困難である。辛うじて専任,専門の非常勤・嘱託職員に対して,やや継続的な雇用の努力がなされる自治体がみられる状況にあるに過ぎない。これら有期雇用職員の安定,継続を基礎とする待遇改善を含めた司書職制度の追究を図りたいと考えるものである。

(文責:松岡 要 日本図書館協会)