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日本図書館研究会研究例会(第296回)報告


日時:
2013年3月15日(金)18:00〜21:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第6研修室
発表者 :
学校図書館研究グループ 飯田寿美氏(小林聖心女子学院)
テーマ :
学校図書館と公立図書館との連携:大阪府下学校図書館現状調査からの考察
参加者:
30名

 この発表では,矯正施設の読書環境等への関心を高めてもらうため,矯正施設の概要や図書館との連携事例等を紹介し,今後の展望等について述べた。

1.調査の目的

 近年,全国的に小中学校の学校図書館担当職員は増加し,文部科学省「学校図書館の現状に関する調査」報告によると,48%に配置されている。しかし,それは学校図書館の活性化に結びついているのだろうか。私たちは,公立図書館との連携の実態からそれを探るために,大阪府下43市町村の教育委員会と公立図書館へアンケート調査を行うことにした。

2.調査の経緯

 2012.1 教育委員会と公立図書館へアンケート依頼

 2012.3 回収と集計(回収:教委20/43 公立33/43)

 2012.7 地方財政措置などで変化があった可能性があるため,教育委員会へ追加調査

 2012.9 追加調査の回収と集計(回収:30/43)

3.調査からわかったこと(ここではアンケート結果の細かい数字や指摘は省き,結論のみを記す)

(1)学校図書館担当職員配置の流れは進みつつある

 現在,学校図書館担当職員を配置した自治体は20/43。その内2003年以前に配置を開始したところが15市町,2008年以降の配置が5市である。これは,1990年前後の「学校図書館に“人”を」運動の盛り上がりによって箕面市や豊中市などに職員が配置され,それがほかの自治体にも波及したこと,その後「子どもの読書活動推進に関する基本的な計画」策定や,「文字・活字文化振興法」制定,サポーターズ会議など,さまざまな公的な手立てが講じられた結果である。

(2)学校図書館担当職員の雇用条件・勤務形態は図書館機能を発揮するには不十分である

 雇用条件は,「臨時」や「嘱託」であり,継続して働ける保証がない。それでは積み上げた経験が活かされない。また,全校配置と言いながら,2校兼務や複数が交替して勤務するなどの実態もある。職員を配置しながら,研修もない自治体がある。これでは,学校図書館の機能を発揮するためには,大変不十分な配置であると言わざるを得ない。私たちは,学校図書館には,専任・専門・正規の学校司書が必要であると考えている。

(3)学校図書館担当職員への理解が不足

 担当職員の有無や職名等に対して公立図書館と教育委員会の回答に齟齬が見られたほか,実態と異なる回答もあった。司書教諭やボランティアと混同するなど,認識に問題があることが感じられた。

(4)学校または学校図書館への連携は公立図書館のサービスの一つであるという認識は,広まってきている

 特に,学校図書館担当職員を配置しているところでは,学校図書館と公立図書館が連携して「読書活動の推進・充実」を考え,資料提供サービスを積極的に取り組もうとしているところが多い。しかし,公立図書館の職員削減,あるいは学校図書館への担当職員の配置が不十分であるため,連携しようとしてもできないという事情もある。

 また,教育委員会は,公立図書館との連携を,資料の共同利用程度に考えているところが多い。学校図書館活動の充実のために公立図書館との連携が必要であるとの認識は薄いようだ。

(5)学校図書館の活性化も公立図書館との連携も,自治体間格差が大きい

 子どもたち一人ひとりの資料要求に応え,学校図書館を活かした授業,多くの資料を揃えた調べ学習を行おうとすれば,公立図書館のバックアップや物流が必要である。さらに学校図書館活動が活性化すれば,公立図書館と学校図書館の連携のあり方はより深まっていくと考えられる。

 例えば,公立図書館は,学校図書館からの学習や資料依頼などの情報が明確になることで,よりきめ細かな資料や情報の提供,資料購入の検討が可能になる。また,館種の違う図書館職員として,相互の図書館理解や資料研究,ヤングアダルトサービスのあり方など,双方の図書館サービスの充実に向けた研修も検討されるだろう。それぞれが図書館として自立した立場で,共に子どもたちの「読書活動の推進・充実」を考え,生涯にわたって「図書館」を使える人を育てる役割も担えるだろう。

 しかし,現在の状況は,学校図書館の活性化も,公立図書館との連携も,まだまだ不十分であるだけではなく,自治体間の格差が大きい。貧しい雇用条件の職員配置では,学校図書館の活性化にも授業支援にもつながらないし,公立図書館との連携も深まっていない。『図書館界』2013年3月号で紹介された豊中市の「とよなかブックプラネット」も,自治体の取組みとして期待されるが,問題点もある。「任期付短時間勤務職員」という学校司書の雇用条件が,今後の発展に支障にならないか。学校司書の所属が教育委員会の義務教育課から生涯学習推進部読書振興課に変わったことで,どのような影響がでてくるのか。連携のあり方と合わせて,これからも注意して見ていきたい。

 発表の後,参加者の中から各市の現状が語られた。

 いくつもの自治体の市民,教師,学校司書からの情報を共有することができたのは,大変貴重で,有意義なことであった。

(文責:飯田寿美)