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ワークショップ報告「都道府県立図書館のあり方を考える−市町村や大学の図書館との相違点とは?」


日時:
2013年12月7日(土)13:30〜16:30
会場:
大阪市立阿倍野生涯学習センター
参加者:
27名

 今回実施されたのは,都道府県立図書館の役割についての考察を深めることを目的とした,参加者同士のグループディスカッションを中心に据えたワークショップである。ワークショップの全体は,(1)政策動向の概観,(2)議論の流れの整理,(3)グループワーク,(4)講評,の4つのパートによって構成されている。

1.政策動向の概観

 日置将之(大阪府立中央図書館)が,主に1970年前後以降における国による政策や都道府県単位での図書館振興策等を概観。

 政策立案の主体は文部科学省(または文部省)が中心であったこと,いわゆる館種別の取組みが中心であったこと,かつては様々な県で行われていた図書館建設等に対する補助金の支給が現在は縮小していること,などが全体的な特徴であるが,特に国レベルでの動きに着目すると,有識者会議による政策文書の作成や「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の告示等,施策の方向性を示すものが増えているのが最近の傾向となっていることがわかる。

 他方,都道府県における図書館振興策については,教育委員会が主体となって実施される中で県立図書館にも大きな役割がしばしば割り当てられてきた。個別の事例としては,1970年代の東京都や1980年代の滋賀県の取組みがその後他県に大きな影響を及ぼしたほか,最近では鳥取県の事例が注目を集めているが,これらに比べれば知名度は低いものの,全国的に見れば他にも様々な振興策が講じられている。

 また,歴史的に見れば,県立図書館の機能についての議論は往々にして図書館の建て替えが検討される際に活発化しやすいこと,ここ最近の動向としては市立図書館との合築(高知,長崎)や廃止・再編(東京,神奈川,大阪,埼玉等)などが議論を呼んでいること,なども留意しておく必要がある。

2.議論の流れの整理

 加藤和英(岐阜県立土岐商業高等学校)が,おおむね1960年代以降の県立図書館論を概観。

 永きにわたり,市町村支援を最重要の役割とみなす考え方と,調査研究型図書館としての役割を軸に据える考え方とが,都道府県立図書館の役割を巡る議論では中心を占めてきた。ただし,両者は排他的なものではなく,それぞれにどの程度の比重を置くかというバランスの問題である。

 市町村支援を重視する見方としては,1963年の『中小都市における公共図書館の運営』(中小レポート),1980年代に滋賀県立図書館長を務めた前川恒雄氏の主張などが知られている。なお,滋賀県に関しては,少なくとも図書館関係者の言説においては,県の図書館振興策よりも県立図書館による市町村支援の注目度が高いのが特徴である。県立図書館は,市町村立図書館と同等の直接サービス,移動図書館,一括貸出,分館の設置,などを行うべきではないとの主張が広くなされ,そうした考え方に沿った実践例も多く見られたが,これは,県立図書館がこうした活動を行うと市町村立図書館にとってマイナスに作用すると考えられたためであり,市町村支援を重視する見方と軌を一にしている。

 一方,調査研究型図書館を指向する見方の起源は古く,中小レポートが刊行された当時もかなりの程度共有されていたことが窺われるが,1980年代から1990年代にかけては,少なくとも言説レベルでは,その存在感は希薄なものとなっており,政策文書等においても市町村支援重視が目につく(例:『公立図書館の任務と目標解説』(1989),『県立図書館の役割と実践』(1994),『公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準』(2001))。しかし,2000年代に入ると,市町村支援(とりわけ図書館間貸出を中心とした資料面での支援)を都道府県立図書館の中心的な役割とすることの限界に着目する言説が提起されるようになり,他方,実際の施策においては,市立図書館との合築,閲覧機能の廃止,閉鎖・再編成など,都道府県立図書館に割かれるリソースの縮減が相次いで図られるようになっている。

3.グループワーク

 参加者を4〜5人ずつ7グループに分け,グループディスカッションを実施。ディスカッションのテーマは以下の3題である。なお,(3)については途中で二度のグループ替えを実施し,異なるメンバーでディスカッションを行った。
 (1)あなたが住んでいる(or働いている)府県では,府県立図書館があることでどのような利点が生じているでしょうか?
 (2)あなたが住んでいる(or働いている)府県が直面する行政課題は何でしょうか?
 (3)府県(府県民)が課題を乗り越える上で府県立図書館が役に立てそうなこととして,どんなことが思いつきますか?
 ディスカッション終了後には,各グループにおける議論の成果の共有を図った上で,コーディネーターである渡邉斉志(国立国会図書館関西館)から講評を行った。

 講評では,冒頭の2つの発表とグループディスカッションの中で提起されたポイントとを踏まえ,都道府県立図書館の役割について考える際の視座を提示した。論点を要約し,列記すると次のようになる。

 今回の企画は,都道府県立図書館がとり得る施策の方向性を探ることに主眼を置いたものであったため,もとより単一の結論を導き出すには至らなかったが,参加型のワークショップという形態をとったことにより,都道府県立図書館が直面している課題の共有が促進され,また,対話の中で新たな気づきを得やすかったという点において,研究発表型の企画とは異なる成果を挙げることができたと推測される。これは,ワークショップ終了後に行ったアンケートで,当企画に対する参加者の平均満足度が4.46(5段階評価で5が最高,1が最低)と非常に高水準であり,さらに,当企画の参加者27名のうち19名を占めていた日本図書館研究会非会員のうち4名がワークショップ終了前後に新たに入会したことからも窺われる。ワークショップは初めての試みであり,改善を要する点も多々あるが,アクチュアルな意義を持つテーマ設定と,研究経験の浅い実務担当者にとっても心理的なハードルが低い手法とを組み合わせたことで,知的交流を促進し,研究の裾野を広げ,かつ研究と実践とを架橋する,という当初の目的は一定程度実現できたものと考えられる。

(記録文責:渡邉斉志 国立国会図書館関西館)

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