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日本図書館研究会研究例会(第318回)報告


テーマ:高齢者福祉施設訪問サービス「元気はいたつ便」〜図書館から届けたい本と元気〜
発表者:河合美奈子氏(田原市中央図書館)
日 時:2016年1月30日(土)13:00〜15:00
会 場:大阪市立青少年センターKOKOPLAZA
講義室505
出席者:16名

●「元気はいたつ便」とは
 田原市図書館が実施する「元気はいたつ便」は,来館が困難な高齢者や障がい者を対象とした高齢者福祉施設
 への訪問サービスである。「訪問サービス」と「団体貸出サービス」の2種類がある。
 実施のきっかけは平成22年の総務省「地域活性化交付金」(光交付金)の館内アイデアコンペで,別々の職
 員から出された「福祉施設・病院等への出前」と「回想法」の2案が原型となった。翌23年度に市関係機関
 への説明,市内3施設との「訪問サービス」試行調整,先進地視察や回想法研修を経て,担当者4名を中心に
 団体貸出・レクリエーション・グループ回想法の試行を開始した。以後平成26年度にかけて,団体貸出サー
 ビスの対象拡大,期限付き訪問サービスの実施(アンケートによりニーズ把握),ボランティア養成講座やマ
 ニュアル整備によるボランティア活動導入(ニーズ拡大への準備)を経て,平成27年度から本格実施に移行
 した。平成27年度現在,図書館スタッフ6名(正規2・嘱託4)・訪問サービスボランティア8名により,
 訪問サービスを13施設,団体貸出サービスを15施設に実施している。

●「訪問サービス」
 図書館職員が施設を訪問し,事前に施設が選択した「グループ回想法」か「元気プログラム」のいずれかを1
 時間程度行うサービス。現在市内13施設に各施設3ヵ月に1度実施している。
・「グループ回想法」 昔の写真や生活用具を用いてかつて体験したことを語り合うことにより,脳を活性化さ
 せて気持ちを元気にする心理的アプローチ。毎回テーマ(料理や遊び,ふるさとの思い出など)を設定する。
 五感を刺激する音楽,写真,食べ物(ギンナン・さつまいもなど)や生活用具(扇風機,そろばんなど)を活
 用する。生活用具は文化生涯学習課(博物館)の協力により約20点を借り受けている。参加者は8名程度と
 少なめに設定し,図書館職員がリーダー(進行役)とコ・リーダー(サポート役)になり,回想法と回想法の
 約束の説明,自己紹介の後,テーマを発表して自由に語り合う。耳を傾ける(待つ・話し過ぎない)ことが重
 要である。回想法は,図書館や図書館員がもっているスキル(お話会,利用者とのコミュニケーション)を活
 用できる。施設スタッフ1〜2名に参加・協力いただいており,スタッフとのコミュニケーションは特に大切
 である。
・「元気プログラム」「グループ回想法は,対象人数が少なく参加できない人が多い」という施設側の声を受け,
 新しく設定した。内容は,読み聞かせ・ゲーム・クイズ・手遊び・歌などのレクリエーションとミニ回想法
 (大勢を対象にした短時間の回想法で,自己紹介は行わない)の組み合わせで,約50分行う。

●「団体貸出サービス」
 施設入通所者やスタッフが必要とする図書館資料を配達・回収するサービス。市内15施設に月1回実施してい
 る。よく利用される資料は大活字本や雑誌,手工芸・折り紙など趣味の本,CD(戦前戦後の歌謡曲,童謡唱歌)
 写真集,郷土資料(歴史・写真集),紙芝居(日本の昔話)などで,皇室写真集は希望が増えている。

●現状と課題への対応
 新設施設からの希望などニーズ拡大への対応/昔の生活用具の収集/訪問サービスボランティアの養成・サポー
 ト/団体貸出の利用促進・提供資料の充実/市関係機関・福祉施設・地域との連携などが現在の課題である。回
 想法講座は年1回公開講座として開催しており,地域との連携を大事にしたい。
 
 高知・福岡など遠方からも参加があり,試行期の苦労,新サービス立ち上げと他業務とのバランス等について質
 疑が行われた。サービス開始当初から関わっておられる河合氏から「どうせやるなら楽しく」という言葉と前向
 きな姿勢を示していただいた例会となった。
                                                          (記録文責 三重大学附属図書館 前川敦子)