TOP > 大会・研究会等 > 国際図書館学セミナー > 2007年度 / Update: 2008.3.11

第5回国際図書館学セミナー報告

プログラム等(開催案内)


1.はじめに

 去る2007年10月17日(水)および18日(木)に上海図書館において開催された第5回国際図書館学セミナーについて,その概要を報告する。

 この国際セミナーは,2000年10月に締結した上海市図書館学会と日本図書館研究会との学術交流協定に基づいている。「情報技術(IT)」を主テーマとして初回のセミナーが2001年10月に上海図書館で開催された。翌2002年10月,大阪(於:大阪市立大学)と京都(於:精華町立図書館)での第2回セミナーでは「ライブラリアンシップの相互理解と進展」をテーマに,図書館協力事業などに焦点を当てた発表と討論が行われた。3年目の調整期間を経た第3回セミナーは,上海において2004年10月,「生涯学習と図書館」をテーマとして実施された。この回は上海国際図書館フォーラム(SILF)との併催であった。そして前回,京都(於:同志社大学)において2005年10月に開催された第4回セミナーは,日中両国の図書館研究や図書館事情の理解と発展をめざし,2つの講演,5つの研究発表,5つの事例発表という盛りだくさんのプログラムで,日中双方の参加者にとってたいへん有意義な2日間となった。

 第5回を数える今回は,共通テーマに「図書館法」を取り上げた。日本では教育基本法が「改正」され,社会教育法や図書館法への様々な影響が懸念されている。また中国においては,いまだ地方レベルの法制度のみで運営されている公立図書館の国家レベルでの立法に向けて,日本や韓国の図書館法を参考にしたいという趣旨でのテーマ設定であった。

2.セミナーの内容

 今回は上海における過去2回のセミナーとは,次の3点において違いがあった。まず1点目は江蘇省・浙江省図書館学会の協力を得,上海以外からも多数の図書館情報学研究者や大学図書館員,公共図書館員の参加があったことである。次に,上海市図書館学会が事前に報告論文を募集し,100を超える応募があったこと,3点目は,当日配布資料(論文集)には,当日の報告内容のみではなく,テーマ関連論文も多数掲載されていたことである。

 セミナー参加者は中国側85名,日本側10名の計95名であった。プログラムでは初日に日本側2名および中国側3名が発表し,2日目は日本側2名と中国側3名による発表,そして後半には発表内容を踏まえたシンポジウムを行った。

 初日はまず,全体における1人目の報告者として塩見昇氏が「図書館整備の法的根拠:その意義と現況,課題」として日本の公共図書館の整備に図書館法がどう活かされたかや,教育基本法の改変でどんな影響が想定されるかについて報告した。中国側は武漢大学情報管理学院副学長・教授であり中国図書館学会副理事長の陳伝夫氏による,中国の図書館が発展するための立法環境についての報告に始まった。

 続いて上海社会科学学院副院長・教授で上海市人民代表大会常務委員会法制工作委員会主任の瀋國明氏が上海市における近年の文化立法について報告した。日本側の2人目として,広島女学院大学の金智鉉氏が韓国の図書館法について現状と課題を報告し,次に金陵図書館の厳峰氏が国家の主導による社会知識保障体制および公共図書館の制度づくりについて報告し,初日を終えた。終了後,上海図書館内にある「図安飯店」レストランにて,中国各地から参加者とともになごやかな雰囲気の中で円卓を囲む懇親会が催された。

 2日目は,神奈川県立図書館の横山道子氏による日本の図書館法の主な内容や論点などについての概説報告でスタートした。次に中国側の報告として,上海図書館の金暁明氏による上海市公共図書館の法制構築の現状や問題点および対策,上海大学図書館の黄仁浩氏による「政府情報公開条例」の実施が中国の図書館立法に与える影響などに関する報告と続いた。日本側は北克一氏が情報環境の変化を踏まえた社会情報基盤としての公立図書館の役割について報告した。最後は浙江大学ネットワーク資源管理系教授の李超平氏が中国の「ネット情報伝送保護条例」立法について報告した。休憩をはさんで後半は陳氏と塩見氏の司会のもと全体討議が行われ,中国における図書館法制定への関心の高さを反映して積極的な質疑応答がなされた。また,来年日本で開催されるセミナーのテーマについても,華東師範大学情報管理系主任の範并思氏をはじめ,上海市図書館学会の役員を主にいくつかの提案が出された。

 閉会挨拶では塩見氏が「今回のセミナーは中国,日本,韓国それぞれの図書館法について現状を共有する場となった。情報公開の窓口を担うことで立法化の道が開けそうだという中国,積極的な図書館政策を法というかたちで表現している韓国。日本では図書館法に何を求めるのかということが問われている。規制力の乏しい日本の図書館法が心細そうな印象を与えたかもしれないが,文化の世界は法律によって何でも規制するというものではない。図書館法を活かす力が我々に問われている。当セミナーでの成果がこれからの上海市図書館学会,日本図書館研究会の活動につながることを期待している」と締めくくった。

 3日目は上海図書館のスタッフとともに,中国共産党幹部の研修施設である「中国浦東干部学院」(China executive leadership academy Pudong)を見学した。10.6万平米の広大な敷地には研修棟の他に宿泊施設や図書館があり,年間のべ7,000名の党幹部が研修を受けているとの説明であった。図書館には分類番号順に配架された書架のみではなく,数々の主題別コーナーが吹き抜けフロアの壁面を取り囲むように設置されていた。このようにゆったりとした環境は,調査研究のための図書館というより,研修参加者のオアシスのような機能が重視されているかの印象を受けた。

3.次回(第6回)について

 日本で3回目の開催(於:大阪市立大学)となる次回に向けて,別記(371ページ参照)のとおり,報告者を募っている。テーマおよび国際交流事業に関心のある方々からの積極的な応募を期待している。あわせて,たくさんのみなさんにご参加いただき,日中図書館関係者のパートナーシップを実感していただきたい。

 最後に,今回のセミナーは呉建中館長をはじめ,上海図書館のみなさまの多大なるご尽力によって成功をおさめることができた。また,日本から参加した10名を暖かくもてなしてくださった。この場をお借りして,心から感謝申し上げる。

(文責:木下みゆき 理事・大阪府立女性総合センター)