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《座標》
『図書館界』56巻1号 (May 2004)

無図書館自治体が無くなる日

−平成大合併の果てにあるもの−

柴田 正美

 「平成大合併」の姿が次第に明らかになってきている。2005年3月が期限とされる「合併特例法」を利用して,約3300ある自治体を三分の一以下の1000程度まで減らすという。法に定められた準備期間は最低でも22カ月必要とされ,もう「待ったなし」の状況である。合併を促進する根拠は,各自治体の財政基盤が極端に悪くなるので,重複業務の合理化を進め,効率化を図ることである。

 さらに介護保険制度の発足で自治体財政への圧迫はすでに始まっている。この制度は国が主導権をもっており,自治体は従わざるを得ない。都道府県の多くも合併を促進する施策を講じている。

 合併によるプラスを期待する自治体もある。特例法第11条の2を利用して「合併特例債」を発行し,懸案だった図書館等の「ハコもの」を整備する自治体,50万人以上とされる「政令市」への移行によって権限の拡大を企図している自治体,合意の得られにくかった市町村建設計画を合併協議会の場で公表し存在を明らかにしようとする自治体など,さまざまな努力・工夫・悪あがきが見えてくる。

 そもそも合併の発議に住民はどれだけの力があるのだろうか。特例法第4条では,「有権者の50分の1以上」の署名でもって請求ができることになっている。その請求を自治体の議会が否決した場合の対処も明示されている。そのような経過で設置される合併協議会の委員は「関係市町村の議会の議員,長,その他の職員,学識経験者」が基本であり,請求代表者は「加えることができる」程度の位置づけである。関係市町村およびそれらの議会の意向が色濃く反映され,住民の出番はあまり存在しない。

 合併協議会で審議される事項には,議員定数及び任期・地方税の扱い・一般職の身分・条例や規則の扱い・事務組織及び機構・使用料や手数料・附属機関の扱い・町や字の区域と名称などがある。これらはいずれも各自治体・議会の議決できることであり,住民はそれらの議員を正当な選挙で選んだ限りにおいてとやかく言える立場にはない。協議会の下に事項毎の部会やワーキング・グループ(WG)が置かれるのが通例である。WGは実務者の集まりであり,現に実施されている公共サービスを見直し,そのあり方までを論議して「草案」が作られる。この作業は現行の事業全体の「評価」につながり非常に重要なものである。たとえ合併がご破算になっても効果は大きい。WGでの結論は尊重されるべきであるが,上位の部会に出されると事業そのものへの無理解と至上課題としての合併実現が優先されるという傾向がある。その結果「サービス水準は低い自治体に合わせて行政効率を求め,住民の負担は高いところに従う」ということになっている。

 図書館でのサービスについて見てみよう。Z市の市民広報によると「館内サービスは,現行のまま新市に引き継ぐ」「館外サービスは,新市に移行後も当分の間現行のとおりとし,合併後3年程度で随時調整」という結論である。「一般職の職員が引き続き職員の身分を保有する」(特例法第9条)から当面のサービスは確保できる。しかし,嘱託や非常勤職員によって担われる部分については2004年度の状況が引き継がれることになるのだが,それはこの原稿を書いている時点では見えない。先行した市の例では地域館の嘱託・非常勤職員が減らされているとのことであり,3年後の状況は想像が易しいだろう。業務の集中で期待される「合理化・効率化」は地域館という出先機関をもつ図書館では難しいことは明白であろう。

 このような課題を抱え込む「平成大合併」であるが,これによって図書館を設置していなかった自治体が,もっている自治体と合併することで外見的には「既設置自治体」と見なされるようになる。「未設置自治体を無くそう」という図書館界の願いが達成されてしまう。この事態に向けた運動を提起してきたであろうか。

 住民の誰でもが均質なサービスを受けることが趣旨となる「公共サービス」としての「図書館サービスのあり方」を,量から質へと転換させる運動を始めなければならない。

(しばた まさみ 理事:帝塚山大学)