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《座標》
『図書館界』60巻1号 (May 2008)

学校図書館を想像し,創造する

飯田 寿美

 学校図書館といわれて,あなたはどんなイメージを描くだろうか。例えば,本年2月9日NHK教育テレビ「あしたをつかめ 平成若者仕事図鑑」で放映されたような元気な学校司書のいる図書館で,食い入るように本を読む子どもの顔だろうか。わいわいと調べ学習で頭を寄せ合う姿だろうか。あるいは,鍵を開ける先生と一緒に入ったときのほこりの匂いと日に焼けた本の背が並ぶ風景だろうか。

 人は皆,自分の体験したことを元にしてしか想像をめぐらすことができない。だから,貧しい学校図書館体験しかできなかった多くの大人が,活き活きとその機能を発揮している学校図書館を想像できないのも無理のないことだろう。

 しかし,研究者となるとそうはいかない。本当はこうあるべきだという理想の学校図書館像をしっかりと描かなければ,どんなにいろいろな調査をし,統計を取ったとしても,的外れの分析しかできない。学校教育や学校図書館の発展に資するための有効な提案をすることができない。

 文科省の調査によれば,2006年現在,日本には約41,000校の学校(小・中・高・特別支援学校)があり,そこに約16,000人の学校司書(学校図書館事務職員)(うち,常勤約6,300人,非常勤約9,700人)がおり,約25,000人の司書教諭が発令されている。

 内実は実にさまざまなのだけれど,その人たちの懸命の努力によって,授業の中に活かされ,また子どもたちの読書生活を支える学校図書館活動が,各地で生まれている。それは,例えば,学校図書館賞(全国SLA)受賞といった学校だけに止まらない。

 研究者の発表の場に行くと,こうした現在の学校図書館の動きを本当に視野に入れて研究しているのだろうかと疑問に思うことがよくある。確かに,働く人もおらず,倉庫然とした学校図書館も多いが,それを是認した上での研究では何も変わらない。

 情報はいくらでもある。例えば,『全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙 ぱっちわーく』の本年2月号を見ただけでも,学校司書が全校配置になった豊中市(大阪府)のようすと,さらに彼らの身分アップを図ろうとする市民の会の活動がわかるし,富山県の学校司書配置運動の現在も知ることができる。

 もうひとつ,そうした研究会で残念に思うのは,公立図書館で働く司書たちもまた,あまり学校図書館に関心を持っていないように見受けられることだ。

 そもそも図書館とは,知る自由を保障するための機関であり,その理念は単独で守れるものではないから,図書館が総体として努力して守っていかなければならないという意味で,「図書館の自由に関する宣言」には「すべての図書館に基本的に妥当する」と書かれているのではないか。

 私たち学校図書館に働くものは,「すべての図書館」の中に学校図書館が含まれることを誇りに感じている。同じ「人と情報をつなぐ仕事」をする人たちと共に歩みたいと思っている。

 想像してほしい。公立図書館よりはるかに小さいが,はるかにたくさんの学校図書館が日本の津々浦々に存在する。もしそこで多くの子どもたちが,本の魅力に出会い,調査研究の基礎とおもしろさを学び,プライバシーを守られることも含めて図書館を使うことは自分たちの権利なのだと思える体験をしたなら,彼らは生涯図書館を友達にする賢い市民になっていかないだろうか。大学図書館を立派に使いこなす大学生になっていかないだろうか。

 そう考えれば,他館種の方々も,学校図書館に目を向けざるを得ないと思うのだがどうだろうか。そうした学校図書館になるためにできることは何か,図書館同士として対等の関係を築き連携していくために必要なことは何かを,共に考えてほしい。

 翻って,学校図書館に,現在「専任・専門・正規」で働いている人は,私も含めて,可能な限りの働きを示す義務がある。でなければ,不安定な身分で,一人暮らしもできない報酬で,しかもこのまま頑張ることで,学校図書館は非正規でもできると思われるのではないかというジレンマまで感じながら,本当に一生懸命働いておられる多くの学校司書の皆さんに申し訳がたたない。

(いいだ すみ 理事・小林聖心女子学院学習センター)