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《座標》
『図書館界』63巻1号 (May 2011)

災害と情報

寒川 登

 阪神淡路大震災を越えるような大災害が起ころうとは夢想だにしなかった。しかし,現実は苛酷である。地震,津波,火災,原発事故,人がつくった想定などは瞬く間に越えてしまうという,これほどの規模の災害は例を見ない。復旧作業が各所・各部署で懸命に行われている。復興に向けた動きも活発化しようとしている。被災地への支援も,災害直後から,国内はもとより,報道によれば139ヶ国35機関という多数の国々・機関からの支援も含み行われている。復旧・復興の内容も次第に各分野へと拡大している。それぞれが自分の分野で活動を進めている。こうした状況の中で気になることを書いておきたい。

 災害発生の早い時期からGoogle及びYahoo,gooなどのポータルサイトがそれぞれ情報の集約と提供の特設ページを設けるなど,ポータルサイトが情報のライフラインとしての役割を発揮した。また,今回の災害では,ツイッター,フェイスブックなどにより,マスコミとは別の側面からの情報が伝えられ,全体としてこれらの存在感が大いに高まったこともある。政府もe‐Gov:電子政府の総合窓口に災害関連の特設ページを設け,国,自治体,報道,生活,交通等々,様々な関連情報を集約して公表・発信している。マスメディア各機関もそれぞれが特設コーナー等を開設して多くの情報を発信している。

 図書館にかかわる分野でも,災害情報への対応が行われている。代表的なものとしてsavelibrary@ウィキ(ツイッター,Ustreamを含む)が図書館関係の被災情報等の集約の場となった。4月からはsaveMLAに引き継がれ,MLA連携のもとに情報が集中・蓄積されるとともに,さらに公民館も含めsaveMLAKと,より広範囲なものとなっている。

 また,国立国会図書館のカレントアウエアネスポータルでも,図書館関係の幅広い災害関連情報がまとめられ発信されている。このように各種各層から様々な災害関連情報が発信されている。こうした様々な情報の活用について考えておくことが必要である。

 神戸大学の震災文庫は,当時の被災地での様々なビラや掲示板情報を収集し成立したものである。今回はこうした紙情報に加えて,当時とは比較にならない大量のインターネットを介した情報がある。これらは様々な場面で活用されたものであるが,今のところネット上にのこされている。まずはこうした情報の系統的な収集と整理を行い,例えば災害関連のサブジェクトゲートウエイの構築等をとおして今後の活用に備えるといったことが必要である。また,今回集積された様々な情報を調査・分析し,図書館としてなにができるのかをまとめることも必要である。こうした結果を「IFLA災害への準備と計画」(NDL訳,2006年)へ反映させ,今回の災害を受けて日本の経験を盛り込んだ補強版としてまとめ,世界へ向けて発信することも必要である。これは支援を受けたことに対する一つの答礼でもある。

 話題はかわるが,災害初期に外国人の日本退去の様子がTVで報道されていた。そこで彼らが言っていたのは,情報がわからないということであった。情報はある,ただし,それは日本語であり,自分たちにはわからないというものであった。しごくもっともな話である。翻訳ボランティアによって多言語の災害情報が提供されていたりはするが,量的には十分なものとは言えない。例えばGoogleは普段から多国語対応であり,今次の災害特設ページも日・中・韓・英と対応しているとは言え,リンクの先はすぐに日本語に行き着くことが多い。機械翻訳機能もあるが,まだもどかしい状況がある。災害の正確な内容の発信のためには,人的な解決方法もまじえ,機械翻訳技術の開発等にも期待したいところである。

 さらに,今回の災害で気になったことの一つにNII(国立情報学研究所)のサービスが停止したことがある。日本を代表する書誌ユーティリティとしてのNIIの稼働停止は学術情報インフラとして課題をのこしたように思う。また,総合目録DB等のデータの保護等について懸念を抱いてしまった。十分な手当が行われているとは思うが,今回のことからも,万に一つのことが起こりうるということを想定して対策を点検するべきであろう。

(さむかわ のぼる 理事)