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《座標》
『図書館界』63巻3号 (Sept. 2011)

栄冠は君に輝く!!

山本 順一

 図書館情報学の担当教員になって,すでに25年,4半世紀が経過しようとしている。最初は首都圏の大学の司書課程の非常勤講師,その後20年は北関東の図書館情報学の専門教育を実施する大学にいた。そして,現在の本務校で司書課程の専任教員を勤めて4年目に入った。これまでわたしの周りから,少なくない学生が図書館現場に巣立っていった。あまり役には立たなかったが,いろいろな相談に応え,アドバイスをしてきた。

 先日,わたしが赴任してから3年間,十分にこなれきれない授業を熱心に聴いてくれている,司書課程で学習を続けている社会学部4年生のK君が研究室にやってきた。「できれば,公共図書館に就職したい」という。阪神間の市役所受験を考えている,とのこと。司書採用の枠はないので,行政職での受験ということになる。「受験申込書の‘志望動機’の欄に書く文章をこしらえたのでみてほしい」と,WORDで作成し,プリントアウトされた短い文章を見せられた。そこには,このように書かれていた。

 「○○市をいっそう住みやすくするためには,図書館をより生活に密着した情報提供機関にするべきだと考えおり,できれば市立図書館で働きたいと念じています。○○市には,結婚・出産を機会に引っ越して来る方が多いです。知らない場所での子育てに悩みを抱えてしまう親がいます。もちろん,○○市役所の関係各課は子育て支援をはじめ,多様な行政サービスを市民に提供しています。その情報は広報誌などを通じて住民に提供されています。けれども広報誌が到着する前から情報を必要としている住民もいます。市役所に尋ねたくても,多くの担当部署があるため相談先に悩む住民もいます。だから図書館であらゆる生活相談を受け付け,市民にとっての‘情報のワンストップ・ショッピングセンター’とするべきです。そして館内の所蔵資料で対応できない場合には,図書館は市役所の関係各課と連携して対応するべきだと思います。また,図書館に勤務できれば,図書館内に設置されている‘お話の部屋’などを使い,外部講師による子育てに関する説明会等を開くなどのサービスも提供したいです。
これらのサービスを提供するためには,人員配置や予算などが必要になります。だから市役所職員として,是非,図書館の能動的経営に携わりたいです。」

 わたしが授業を通じて,日ごろ話してきた中身が確実に伝わっていることが分かる。読書と乏しい経験から得た外国の図書館をめぐる制度や事情を重ね合わせて講義案を構成しているので,彼にそのことを話させれば,きっとわたしよりも上手にいまの日本の図書館が抱えている問題と課題を自分の見解をまじえて論じてくれること,請け合いである。しかし,彼が受験しようとしている市では,ひとつの図書館は指定管理者制度を導入し,中央館もカウンター業務などは委託されている。時代に先んじる専門的知識をもたないゼネラリストが行政作用の多くをにない,図書館行政も同じ轍を踏んでいる。‘住民参加’の美称がささげられ,出自の異なる,思い思いに勝手なことを言い立てるメンバーから構成される付属機関に囲繞されているのも,いまの国の行政と同様である。

 ふたむかし前には,‘図書館に就職したい’と強く願う4年生の学生のなかには,年を越し,2月あたりにめでたく悲願を成就する者もいた。いまは公立図書館の幹部(患部)になっている。勉強を続けていれば,かなりの確率で図書館現場に入職でき,税務や福祉,情報システムの分野に異動した者も少なくない。

 ところが,「なるにはシリーズ」(ぺりかん社)などが学校図書館や大学図書館におかれ,少なくない補助金を投入しキャリア教育が各大学で正規の授業として実施されても,それだけで一部の高齢高給の正規職員とおびただしく存在する不安定と貧困にあえぐ非正規職員があふれる公務員市場を含む労働市場の全般的構造に変化の兆しはなく,コストカットの圧力はますます強くなっている。

 「K君!! 矛盾と不条理だらけの人の世だけど,権力と権威におもねらず,卑屈にならずがんばっていれば,きっと良いことがあります。天使ガブリエルが‘神の声’をもたらすはずです。いずれ,栄冠は君に輝きます。一緒にがんばろう。」

(やまもと じゅんいち 理事 桃山学院大学)