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《座標》
『図書館界』64巻5号 (Jan.,2013)

「学校図書館は大事」であるためには

高木 享子

 これまで,主体的な学びが期待される時代には度々「学校図書館は学校教育にとって欠くことのできない施設」であると主張されてきた。さらに,「読書活動の推進に関する法律」の制定(2001年)により,読書支援の側面から公共図書館が積極的に学校に働きかける自治体も増えてきている。では,学校において学校図書館の活用が広がり,深まってきているのだろうか。残念ながらまだ依然として“道険し”である。

 一番の理由は,専任・専門の司書が常駐して児童・生徒や教職員に図書館サービスを展開している学校が少ないことだろう。多くの現場では学校図書館を活用できる環境整備があまり進んでいないため,「学校図書館は大事」であると実感されていないのが現状なのである。

 しかし,昨年,学校図書館整備以外にも,“道険し”の理由に思い至ることが二度あった。

 一度目は,大阪教育大学で行われた司書教諭講習に関わった時のこと。小・中・高校,支援学校,全ての校種の先生が参加されており,学校図書館の現状を知る貴重な機会だった。

 学校図書館法には学校図書館の目的として「教育課程の展開に寄与する」「児童生徒の健全な教養の育成」が掲げられているが,現場ではいまだに,鍵のかかった場所,“読書する部屋”といった学校図書館がいかに数多く存在しているかを痛感した。支援学校では図書館専用の部屋さえ無く,資料費が驚くほど少ないという報告も複数あった。また,高校からはここ数年,これまで専任だった学校司書が他の仕事との兼務になったり不在になったという報告もあった。

 講習中,学校図書館法やユネスコ学校図書館宣言を紹介し,生涯学習の観点からも学校で図書館利用指導が必要であることを伝えた。また,教師も授業づくりのためにレファレンスなどを通し積極的に活用できるのが学校図書館であると説明し,自治体によっては他校図書館や公共図書館から貸借するシステムもあることなどを伝えたところ,「図書館のイメージが変わった」と感想を書いてくださる先生が多くいた。もちろん,理想と現実のギャップの中で「学校図書館の未来は暗い」とわざわざ言いに来られた方もいた。確かにこれが厳しい現実であるとしても,図書館のサービスを知り,一利用者として日常的に図書館を使う教師が増えれば,授業でもごく自然に図書館を活用したいとの声が出てくるのではないだろうか。授業者である教師が切に学校図書館の充実を訴えることが重要なのである。

 二度目の機会は,私が所属している「学校図書館を考える会・近畿」(注)の学習会でのこと。公共図書館司書,学校図書館司書,市民など学校図書館に関心を持つ方々が集い,各自治体の学校図書館に関する情報交流や意見交換を行った。会も後半になると,「どうして授業で図書館が活用されないのか。先生に図書館の大切さを伝えていく必要があるのではないか」という発言に対し,「教師だけでなく,図書館への理解は市民にも広まっていない」という意見が出た。このことで,各人が自分の図書館活用をふり返る貴重な時間となった。

 この2つのできごとで,学校図書館活用を指導する立場の教師も,学校図書館に期待を寄せる保護者・地域の人も,学校司書も,学校図書館施策を進める自治体職員も,議員も,首長も,つまりすべての人が「市民」として図書館をいかに活用しているかが問われているのだ,ということを再認識した。たとえハード面の図書館整備が進んでも,豊かな図書館サービスを受け,「市民」一人ひとりの図書館活用の深化がなければ図書館への期待度は高まらない。地域の図書館活動の広がりの中からこそ,生涯学習の基礎を学ぶ学校図書館の役割がいかに大事かが真に周知されるだろう。

 新しい年の始まりにあたり,まずは,自分自身の図書館活用を見直す一年としたい。

(注)学校図書館が機能し,教育活動を支援することで,子どもの育ちや学びが豊かに展開することを期待し,学校図書館や教育に関する学習と情報交流を主体に活動している。

(たかぎ きょうこ 理事 学校図書館を考える会・近畿)