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《座標》
『図書館界』65巻3号 (Sept. 2013)

子育て期の女性と図書館

木下 みゆき

 「135カ国中,日本は101位!」これはダボス会議を主催する世界経済フォーラムが発表した「2012年度男女格差指数(GGI)」の数値である。評価項目は,@経済への参加と機会,A教育レベル,B政治的な権利,C健康と生存の4項目であり,日本については,女性議員や企業幹部の少なさや,女性の教育レベルが高いにもかかわらず,労働市場で活用されていないことが指摘されている。社会経済状況の変化による共働き家庭の増加や,若い男性の育児への関心の高まりなどを反映して男性の家庭への参画は徐々に進んではきているが,依然として家事・育児の女性への負担は重い。約6割の女性が出産・育児により仕事を辞めるなど就業継続が困難な状況にあり,また,仕事を継続した場合も家事や育児との両立を難なくこなしている女性は決して多くない。はたして,子育て期の女性がプライベートな時間に自分のために図書館を利用することが容易であろうか。

 ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)情報ライブラリーで子育て期の女性に利用を仕掛けている2つの例を紹介する。一つは公共職業訓練「母子家庭のお母さん等を対象とした職業訓練」内のプログラムである。期間中に必ず,情報ライブラリーで「今日の私にとってのこの1冊」を選んでいただく時間を設けている。みなさんにこの日のプログラムを説明する際に,まず,「普段,図書館をよく利用されますか?」とたずねると,受講者の半数近くの人の手が挙がる。利用目的をお聞きすると,子どもの本を借りたり,「お話し会」の参加などほとんどの人が子どものための利用だと答える。

 「では,今日はみなさん自身のために,思う存分図書館を使いましょう」と案内する。ある方は「自分のために図書館を使うなんて,おとなになって初めてかもしれません」と言われた。心を空っぽにして図書館や書店の棚をながめ,その日その時,自分がどんな本を手に取るかによって,今の自分の心の状態や関心事を客観的に知ることにつながる。私が図書館員という仕事に関心を持ったのは,こんな体験がたくさんあったからかもしれない。「今日の1冊」を手にした彼女たちには一人ずつ,その思いを他受講者の前で語っていただく。自己紹介やプレゼンテーションよりずっと,ご自身の思いや状況が聴き手に伝わる。感極まって泣き出す人も稀ではない。

 二つ目は東日本大震災被災地から関西に避難しておられる女性たちへの呼びかけである。当センターを運営する大阪府男女共同参画推進財団は,2011年度から,内閣府「東日本大震災被災地における女性の悩み・暴力相談事業」を受託している。この事業実施を通して地元の自治体や女性団体等と交流する中,大阪のドーンセンターから応援できる事業を企画した。ひとつは2012年9月に実施した東北の女性たちがつくった農産物,加工品,手仕事品などの販売を行う物産展である。被災地の女性たちのグループや仮設住宅に住む高齢女性のみなさんが手作りした食品や雑貨など91品目が出品され,2日間でのべ約1,000人の来場があった。もうひとつは2011年9月に「東北地方から関西へ来られた女性のみなさんへ:故郷のこと,話しませんか」と呼びかけた被災女性のためのサポートグループをスタートしたことである。10名を超える参加者のほとんどが子育て中の女性で,館内の託児サービス(無料)を利用しての参加である。毎回ライブラリーに立ち寄ってくださる方が何名かおられる。スタッフは,男女共同参画視点のある防災・復興関係資料コーナーをさりげなくご案内したり,子どもさんと一緒にお読みになる本探しをお手伝いしたりしている。

 男女共同参画センターの特徴の一つは,各種事業プログラムの実施・ジェンダーの視点に立ったカウンセリング事業・情報提供事業という機能を併せ持った総合施設であることだ。これらの例のように講座や事業の一環として「本の力」,自分のために本を探す楽しみをあらためて知っていただく機会を提供できるのは,男女共同参画センターにある情報ライブラリーの強みの一つということができる。当ライブラリーでこれらのプログラムに参加したことをきっかけに,彼女たちの地域の身近な図書館利用につながることを願っている。

(きのした みゆき 理事・一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団・大阪府立男女共同参画・青少年センター)