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《座標》
『図書館界』66巻2号 (July 2014)

参加と共有

川崎 良孝

 本年2月に行われた研究大会のシンポジウムのテーマは,「人と人,人と資料が出会う場としての図書館」であった。そこでは,「第三の場」としての図書館,ラーニング・コモンズについて基本的な報告がされている。この2つの言葉と実践は今や国際的な図書館の世界で共通言語になっている。21世紀になって刊行された公立図書館や大学図書館の全般を扱った概論書,実務書,経営管理書に,これらの言葉は例外なく出現する。特にラーニング・コモンズについては単行書も数冊ある。いずれ前者は大学図書館に後者は公立図書館にも広がり,相互に浸透していくだろう。その他のサービスとして,24/7レファレンス・サービス,読書グループの育成と援助,1920年代とは異なる読者相談サービス,“Un‐Library”といった住民参加型の図書館の空間構成,“UnConference”や“Webinar”といった図書館員参加型の研修会,アイデア・ストアー,Helsinki 10といった特色ある図書館運営とサービス,さらにはブティック型のサービスが生まれている。また図書館プログラム(集会室,展示空間,掲示板に関わるサービス)が,従来以上に重視されている。“Library2.0”の環境もあって,図書館がサービスを提供するというよりも,図書館と住民がサービスを作り上げていくという方向が顕著にでてきている。

 こうしたさまざまな思想や実践は,「参加」と「共有」という語でくくることができる。前者は住民の参加を,後者は資源の共有を意味する。例えば図書館はこれまで講師を迎えて講演会を提供していたが,そうした講師を図書館「資源」と把握して,講演を聞くというよりも,住民の関心を中心に置いて講師と対話型の会合を,打ち解けた雰囲気の中で行うという方向である。こうした企てはアメリカの独立型書店などが行っていたことで,それを図書館が導入したともいえる。

 「参加」「共有」といった語は無色透明の言葉なので,概して積極的な意味に捉えられ,これは否定しがたいであろう。

 ところで,本会は上海市図書館学会と提携しており,2013年11月に第9回日中図書館学セミナーを上海で開催した。これは中国文化部が主催,上海市浦東区政府が実施する中国図書館大会(日本の図書館大会に相当する)の1つの分科会としての位置づけで,100人以上の参加があった(詳細は以下を参照。『図書館界』第65巻5号,2014年1月,p.334―335)。大会自体は,上海世界博の会場を使用し,全体としてメディアや広報を意識した積極的な大会運営がされていた。

 この大会で,ある国の公立図書館政策の責任者が次のような内容の話を行った。要するに,公立図書館システムの1つの分館の運営を,ほぼ完全に地元住民のボランティアにまかせるという実験を行っているという。いわゆる図書館員は週に何回か訪問して指導や打ち合わせなどを行うが,その分館に常駐する図書館員はいない。この発表者は,この「斬新」な試みを発表の目玉として報告した。いま1つの目玉として報告されたのは,自発的に住民が組織するライブラリーの紹介で,それらと公立図書館との協力関係を促進したいということであった。

 これらはいずれも「参加」と「共有」の具体的な実践といえ,そこにさらに「自由」という語が追加されているように思われる。日本よりも統制が強い国にあって,こうした「参加」「共有」「自由」という言葉が住民に訴える力は大きいだろう。しかし,ここでの「自由」は,どうも図書館行政の責任の放棄,図書館専門職集団の地位の低下につながると思われてならない。

 本会では2013年3月の研究大会でシンポジウム「ネットワーク時代の図書館とプライバシー:なぜ守る?どう守る?」を行った。情報環境の変化,図書館,プライバシーの関連を問題にし,問題点の抽出と議論の方向について検討した。これも「参加」と「共有」の一面,この場合は従来の図書館の基本的な価値の揺らぎに関係することで,今後の重要な課題になる。

 私たちは「参加」「共有」といった耳ざわりのよい言葉に,いま以上に敏感になる必要がある。

(かわさき よしたか 理事長・京都大学)