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《座標》
『図書館界』68巻3号 (September 2016)

オープンアクセスと大学図書館

赤澤 久弥

 2006年9月号の「座標」に「機関リポジトリの離陸」(渡邊隆弘氏)として,大学図書館がNII委託事業を受け,機関リポジトリに本格的に関わり始めた当時の状況が述べられている。それから10年を経た今,多くの大学図書館にとって機関リポジトリは業務の一環として定着する一方,オープンアクセスを巡る動きは,更なる対応を求めつつある。ここでは,オープンアクセスと大学図書館に関する昨今の動向を概観してみたい。

 まず,2013年の博士論文のWeb公開義務化を一つの背景に,機関リポジトリ構築機関数は大幅に増加しており,現在約680を数えている。また,当初各大学が独自に機関リポジトリサーバを構築する例がほとんどであったが,NIIの共用リポジトリサービスJAIRO Cloudを利用し機関リポジトリを運用する大学が過半を超えている。

 また,NII委託事業による取組からは,機関リポジトリに関わる大学図書館間のつながりが形成された。その系譜を踏まえつつ,JAIRO Couldの共同運営母体のみならず,機関リポジトリの機能開発や人材育成,国際連携の役割を担うものとして,オープンアクセスリポジトリ推進協会が2016年7月に設立された。今後,協会を基盤にインフラを維持し持続的なコミュニティを確立できるかは,今後の機関リポジトリのあり方にも関わる可能性がある。

 ところで,国内の多くの機関リポジトリは,従来,大学紀要類を主要な収録コンテンツとしており,人社系におけるオープンアクセスの重要な基盤となっている。また,もとより機関リポジトリは,商業学術出版に対するカウンターとして,論文セルフアーカイブによる,いわゆるグリーンOA基盤の役割を担うことが期待されてきた。グリーンOAの推進には,研究者の理解と行動が欠かせないが,近年,機関リポジトリでの論文公開を大学として義務づけるオープンアクセス方針を制定する動きも広まりつつある。

 一方,ゴールドOAとされる,著者が論文掲載料を支払うことでオープンアクセス化されるジャーナルのビジネスモデルが,2010年頃から海外の学術出版により興隆してきている。結果として論文が広く公開されるわけだが,大学にとっては,雑誌購読料との二重払いになりかねない。従来,雑誌購読契約を担ってきた大学図書館にとって,研究者や財務担当とも連携しつつ,ゴールドOAに関わる費用を最適化することも課題となっている。

 さらに,学術論文だけではなく,研究データをオープン化して活用する枠組であるオープンサイエンスを巡る動きが近年大きくなってきた。これは,学術情報流通の変革のみならず,オープンイノベーションやシチズンサイエンスの文脈も含んだ国際的な動向となっている。政策的にも,2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」では,知の基盤強化として,公的資金による研究成果の利活用によるオープンサイエンス推進があげられている。

 加えて,文部科学省が2016年2月に公表した「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」では,大学図書館員に対し,機関リポジトリの構築経験を背景に技術職員や研究支援職であるURAと連携しつつ,データキュレーターの役割を担うことを期待するとしている。また,人文学分野におけるデジタル・ヒューマニティーズの動きも,広義のオープンサイエンスとして捉えうる。こうした潮流の中,研究データとの関わり方は大学図書館の新たな課題となりつつある。

 さて,この10年で「離陸」から「飛翔」した機関リポジトリを介して,大学図書館は,研究サイクルや学術研究成果の社会への還元に,深く関わるようになった。そして,目まぐるしく変わる学術情報を巡る動向と多様なステークホルダーとの関わりの中,10年先に大学図書館がどのような役割を担うのかを見据えていくことが,今,求められている。

(あかざわ ひさや 理事・京都大学附属図書館)