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《座標》
『図書館界』69巻2号 (July 2017)

憲法70周年:無料制は誰のもの?

志保田 務

  憲法は70周年を迎えた。この日本国憲法第26条は「教育を受ける権利」を定め「義務教育はこれを
 無償とする」と規定する。「公立図書館は……いかなる対価をも徴収してはならない」という図書館法1
 7条は憲法のこの規定に呼応しているだろう。

  2013年厚労省調査によると“子ども”の6人に1人が貧困であり,2014年には「子どもの貧困
 対策の推進に関する法律」が施行された。共働きやひとり親など家庭環境の多様化に対応したもので,放
 課後児童クラブ,学童保育,児童館などの設置・支援がそれである。この法律は,地方での実行を促す主
 旨のものであり,各市区町村が予算と人材の不足のなか奮闘しているが,十分でない。給食費が払えず,
 修学旅行に金がなく参加できない児童・生徒への対策などが厳しい。

  “子ども”の範囲は広い。義務教育である中学生は当然,小学生と同様に支援を受けられるはずである。
 だが学童保育等は小学生が対象である。高校生などの年齢層への支援はどうであろう。この年代も法律で
 は“子ども”だが,保育という域にはいない。しかし,授業時間外の学習,趣味のための場所を欠くとい
 う“貧困”におかれた若人がいる。いじめ,不登校,引きこもり,自傷,自殺等々に繋がる恐れがある。
 この年代の微妙な心理,アイデンティティへの社会的配慮が必要である。
 
  米国では児童相談所のほか,YMCAなどの民間団体が若者支援をしてきたが,近来はより入りやすい公共
 図書館が関わる形が出てきた。オークランド市立図書館に見るように,ヤングアダルトが自主運営するネ
 ットルームを設け,さらに館員(専門司書)が近くの公園や中心街にでかけ,青少年に話しかけ,本や図
 書館へ誘っている。なおこの図書館は,最初の分館を高齢者主体のサービス形態で設置した。

  日本でも鎌倉市図書館の「死ぬほどつらい子は図書館にいらっしゃい」との呼びかけが反響を呼んだ。
 こうした活動の安定化,展開が他にも望まれる。
  
  情報化社会にあって,情報機器を自己所有できない人に機器・機能を提供し,若年利用者がその運営に
 関わる。これらを通じ学習,交流の場,読書機会の拡大が起こると考える。また行政的手続きなどに不慣
 れな,あるいは情報機器を上手に操作できない高齢者,障害者を生活目線から支援する働きが求められる。
 ニューヨーク公共図書館の,高齢者を雇用しての高齢者サービスの例は有名である。さらに,聴覚障害者
 支援の充実,外国人(居住者・旅行者)対応の充実など,多面で“無料で情報を提供する”図書館という
 存在意義を示したい。ただしこれらは,条件を整えつつ追求すべきであり,個々の専門職の過労を導いは
 ならない。
 
  今年の憲法記念日,ある党の総裁が,大学教育を含む“高等教育無償制”を入れた憲法改正案を発表し
 た。ここ十年の世論調査では改憲に賛成する人の割合は低下を続けているが,そのなかで改憲項目に教育
 を突然加えた。“全教育無償”を本気で実現しようとするなら現憲法下でも具体レベルの法律で定めうる。
 図書館法が公立図書館の無料制を規定するように。無論,財政資源が肝要である。なお同与党は数年前野
 党の時期,高校授業料無償化の法律制定にすら財源不足を理由に激しく反対したのである。奇異である。

  すべての人は生存権を有する。その発揮には読書等,情報の取得が不可欠である。貧困者にも情報を公
 平に保障するところに,公立図書館“無料性”の根拠がある。草の根民主主義の働きである。

  ところで国立国会図書館法第21条2項は「館長は,前項第一号に規定する複写を行った場合には,実
 費を勘案して定める額の複写料金を徴収することができる」と規定している。“前項第一号”とは「イン
 ターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて閲覧の提供を受けた図書館資料と同等の内容を有
 する情報資料提供」である。電子化を徹底した結果,図書館間貸出は紙への複写の送付一本槍。複写料金
 を要する。著作権法,送信権等環境を克服してのWeb提供実現が待たれる。
 
  公共図書館は“電子書籍”の改善を更に追求し,電子資料の活用の場を構築し,貧困打破の一環とした
 い。図書館の無料性は弱者救済を基とする。

(しほた つとむ 理事・桃山学院大学)