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《座標》
『図書館界』69巻6号 (March 2018)

電子書籍の今

家禰 淳一

  2017年12月12日に,2018年1月31日をもって,電子書籍検索サイトhon.jpが閉鎖
 するというニュースが入った。電子書籍関連のニュースも配信していたサイトで,便利に利用して
 いたが,残念な思いである。日本の電子書籍市場は,2010年に電子書籍元年と言われた。そし
 て,2012年10月にAmazonが,‘Kindleストア’日本版を開始して,2017年で5年が経過
 した。電子書籍市場も大きく様変わりしてきている。ここで現在の電子書籍をとりまく状況の雑感
 を記す。
  米国においては,ソニーを先駆として,毎年,電子書籍市場が拡大し,早くにハードカバーの売
 り上げを追い抜いていたが,近年はどうであろうか。米国は,2015年に大手出版社が値上げし
 たことなどを要因に,それ以降,電子書籍市場が縮小し,紙の書籍が持ち直しているらしい。値上
 げだけが要因ではないとも考えられるが,日本では反対に電子書籍市場の拡大が続いている。米国
 の後を追っている感があるが,出版市場のしくみが違うため,今後の動向については,必ずしもそ
 のとおりではないかもしれない。
  Amazonをプライム会員としてよく利用している。プライムでなくとも,Kindleを購入すれば,以
 前よく紙の書籍で読んだ,岡本綺堂の探偵物,怪奇怪談作品も,図書館の蔵書として購入した久生
 十蘭作品集も,無料かまたは安価な電子書籍ですぐに読める。スマートフォンにアプリをダウンロ
 ードすればどこにいてもクラウド上の電子書籍を読むことができるし,無料で読み放題のサービス
 もある,もちろんこれらの作家は個別の作品ごとに青空文庫でも無料で読むことができるが,まと
 まって1冊のコンテンツになっていればデバイスで見た感じ整理されていて便利である。
  電子書籍から離れて見てみると,アメリカを中心に,オーディオブックがよく利用されている。
 読書は音楽と同じように聞くものとして以前から市場が確立している。カナダに本社を置くRakuten 
 Kobo社は英語圏限定で,オーディオブックの販売を始め,Koboアプリで直接再生でき,月額9.99
 米ドルで毎月1作品購入できる。電子書籍を取り扱ってきたベンダーは,書籍という枠組みを超えて,
 多様なデジタルコンテンツの市場を形成しつつある。
  ひるがえって,日本の公共図書館での電子書籍を見た場合どのような状況であろう。電子書籍が蔵
 書たり得るかという議論もあり,デジタルコンテンツとしての公共図書館の扱いは,独自資料のデジ
 タル化とデジタルアーカイブ(いずれにしても地域資料が中心である)へと向かっているように思え
 る。
  海外に目を向けると,シンガポール国家図書館委員会(National Library Board, Singapore:NLB)
 が,2017年10月にビジネス本の電子書籍やオーディオ“Digital Business Library”を公開し
 ている。これは楽天が子会社化したOverDrive社との共同事業である。
  日本の公共図書館の電子書籍提供は,動く絵本などの新たなコンテンツも追加し(ただし,公共図
 書館の電子書籍の蔵書は依然として少なく,そのため2016年10月には大手4社がそれぞれの特
 性を生かして提携し図書館向けのコンテンツ増加を目指した),ブラウザソフトだけで,読むことが
 でき,OS環境も多様に対応できるようになった。コンテンツも徐々に増えつつあるが,蔵書としての
 扱いが難しい点などもあり,導入に踏み切る自治体は米国に比べると圧倒的に少ない。しかし,図書
 館利用に障害がある人へのサービスとして,電子書籍のアクセシビリティの向上に期待が高まってい
 る。2010年には早くも電子書籍のデファクトスタンダードとして最も流通している電子書籍ファ
 イルフォーマット規格EPUBと国際標準規格のDAISYとの連携によって,出版と図書館の変革が企図され
 てきた。
  プライベートでは,デジタルコンテンツを,図書館のコンテンツを借りるか自分で購入するか無料で
 ダウンロードするかして多様な方法で利用している。今後,無料で利用できる公共図書館は,電子書籍
 を含め,多様なデジタルコンテンツの提供が課題であり,さらに,目の前に迫る電子図書館の今後を洞
 察しなければならなくなるであろう。

(やね じゅんいち 理事 奈良大学)