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《座標》
『図書館界』72巻2号 (July 2020)

新型コロナウイルス感染症による影響の中で

西尾 恵一

 今年に入ってから,新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっている。日本においても2月から感染
者が各地で報告され始めていたが,3月下旬より急激に増加したことにより,緊急事態宣言が4月7日にまず7
都府県に対して発令され,そして16日には対象が全国に拡大された。この原稿を書いている4月下旬において
も感染者数の増加が未だ収まる気配がない。

 このことは図書館にも休館,一部サービスの停止等大きな影響を及ぼしている。加えて,多くの地域で特措法
に基づく休業要請の対象に含まれたこともあり,職員の勤務形態においても在宅勤務や自宅待機の実施等,これ
までにない対応を迫られている。

 具体的には,まず2月中旬から各種イベント・セミナーの中止・延期という形で表れてきた。続いて同月下旬
には施設を休館とするところが出てきて,感染拡大に歩調を合わせて増加していった。4月下旬には,都道府県
図書館で施設が一部でも開館中となっているのはわずか5自治体6館で1),市町村立図書館は88%が休館と
なっている2)。その中には,北海道立図書館のように一旦再開したものの,再び臨時休館を余儀なくされたとこ
ろもある。
 
 休館中の職員体制についても,特に緊急事態宣言発令後は,経済産業省が関係団体に在宅勤務等の推進につい
て要請したこともあり,直営・委託に関わらず出勤者数を減少させているところが複数ある。そのため,何とか
継続実施していた電話・webでの問合せ受付等の非来館サービスも中止・縮小せざるを得ない場合もあった。一
方で期間限定ではあるが,大阪市立図書館が電子書籍の同時アクセス数を緩和する等,サービスの活用を図る動
きもある。
 
 特に今回は,各図書館によって対応は異なるが,それぞれの地域状況や利用者層,館の規模等を踏まえたうえ
で,知る自由と公衆衛生の優先度を考えて苦渋の決断をされていると思う。ただ,その中で普段なら無意識にな
りがちな,死守すべきサービスと優先度の低いサービスが何かということを改めて考える機会になったのではと
感じている。
 
 そして,日本図書館研究会の運営においても,2月22・23日の研究大会の中止,6月7日の特別研究例会
を始めとする各例会の中止または延期,評議員会の実施を通信によるものとする変更等,これまでにない影響が
出ている。
 
 特に研究大会については,2月の時点ではまだ世間にはそれほどの切迫感はなく,理事の中でも延期も含め意
見が分かれていたが,2月20日に厚生労働省が「イベント開催の必要性を改めて検討する」よう求めるメッセ
ージを公表したこともあり中止の判断に至った。苦渋の決断だったが,後に報道されたように2月時点で既にク
ラスターが発生していた,という事実からも間違いではなかったと考えている。ただ,やむを得ないとはいえ理
事間での協議が直前となってしまい,そのために中止告知が開催予定の前日になってしまった。そのことにより,
参加予定の皆様に多大なご迷惑をおかけする結果になったことは大きな反省点である。理事の一人としてお詫び
したい。
 
 一方,2020年度第1回理事会を4月5日に初めて本格的にビデオ会議方式で行った。始める前は,無事に
できるのか多少の不安があったが,大きな問題も無く行えることが実感できたのは収穫だった。
 
 事態がいつになれば収束するのかまだ見通せず,この原稿が掲載される頃に平穏な日常を取り戻せているかど
うかわからない。心身ともに余裕のない状態で業務を遂行せざるを得ない状況だが,未来につなげる判断を行う
よう心がけていきたい。

注
1)カレントアウェアネス-R「新型コロナウイルス感染症による都道府県立図書館・政令指定都市立図書館・国
    立国会図書館への影響(第8報)」による〈https://current.ndl.go.jp/node/40810〉[引用日:2020―
    04―28]
2)saveMLAK「COVID-19の影響による図書館の動向調査(2020/04/23)について」による
   〈https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:プレス/20200424〉[引用日:2020―04―28]

(にしお けいいち 理事・大阪府立中之島図書館)