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《座標》
『図書館界』72巻4号 (November 2020)

コロナ禍における電子書籍の導入について

日置 将之

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言発令時には,多くの公共図書館が臨時休館を余儀なく
され,利用者と接する図書館サービスの提供が大幅に制限された。緊急事態宣言が解除され,ほとんどの図書館が
開館している現在でもその影響は継続している。

 このような状況のなかで,電子書籍や郵送・宅配等による貸出といった非来館で提供可能なサービスへの注目が
高まっている。特に電子書籍については利用が急増したとの報道が複数なされており1),コロナ禍を契機として
新たに導入する図書館も出てきている。

 公共図書館では2007年に千代田区立図書館で初めて電子書籍が導入され以来,じわじわと導入館が増えてい
たが,2019年10月時点での導入館数は86館にとどまっており2),導入には慎重な図書館も多かった。し
かし,コロナ禍を経た2020年7月時点での導入館数は97館にまで増えている3)。図書館に来館せずとも利
用が可能な点や物理的な接触が生じないといった電子書籍の特性は,感染拡大を抑制するための社会的要請とマッ
チしていることから,利用の急増や導入の加速につながったのだろう。9月末までに申請すれば「新型コロナウイ
ルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用も可能なことから,今後も導入館が大幅に増える可能性が高い。

 一方で,これまで電子書籍の導入が進まなかったのにはそれなりの理由があったと考えられる。例えば,予算確
保の難しさや紙媒体より高額な単価,新刊を含めた図書館が求めるタイトルの不足,永続的な利用の補償がない等,
導入に際しては検討すべき課題が多い。コロナ禍を契機とした導入では,これらの課題がクリアされたわけではな
く,特別な予算措置がなされるなどして急きょ導入したものが多いと考えられる。その場合,検討に割ける時間は
少なく,電子書籍を導入する上でのポリシーや長期的な展望が十分に練られていない可能性が高いため,継続的な
サービス提供という点からは不安を抱えていると言える。

 電子書籍には今回のコロナ禍で注目された特性以外に,図書館側にとってのメリットも複数ある。貸出・返却・
予約業務の自動化や「延滞」が存在しない点,資料の劣化・紛失もなく,省スペース化にも役立つ点等である。ま
た,2019年に公布・施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(通称:読書バリアフ
リー法)では,視覚障害者等が利用しやすい電子書籍の提供環境整備や研究開発等にも言及していることから,ア
クセシビリティ面でも今後はさらに利便性が増すと予想される。

 このため,非来館型サービスの拡大や図書館の利用に障害のある人々へのサービスを積極的に行いたい場合には,
未導入の図書館でも電子書籍に関する検討は必要になってくると考えられる。まずは自館にとっての必要性を十分
に吟味した上で,想定される利用者層や紙媒体資料とのすみ分け(電子書籍での蔵書構成)等を検討し,長期的な
視野に立ったポリシーを立てることになると思うが,このような検討には多角的な情報が必要になる。ベンダーか
ら提供される基本的な情報だけではなく,実際に電子書籍を使用している図書館からの生の情報も非常に参考にな
るだろう。電子書籍を導入済の図書館には,可能ならば利用状況や活用事例等に関する情報を広く共有していただ
きたいところである。

注
1)例えば,大阪市立図書館では3〜7月までの利用件数が前年度同時期の3〜7倍に急増したと報道されている。
  (大阪日日新聞2020年8月26日)
2)植村八潮ほか編『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告2019』電子出版制作・流通協議会,
  2019,p.195
3)電子出版制作・流通協議会「電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2020年07月01日)」
 〈https://aebs.or.jp/Electronic_library_introduction_record.html〉[引用日:2020―09―01]

(ひおき まさゆき 理事・大阪府立中央図書館)