『図書館界』62巻3号 (Sept. 2010)

《座標》『図書館界』62巻3号 (Sept. 2010)


21世紀二桁の出発:図書館経営難とICT化の衝撃

志保田 務

 S.R.ランガナタンが見直されている(図書館の歩む道:ランガナタン博士の五法則に学ぶ/竹内悊著,日本図書館協会,2010)。この“法則”は図書館経営の深淵の指針とされ,ユネスコ公共図書館宣言に生かされその後の電子化の時代までをも意識せしめると言う。財政難,経営とICTの多様化に行き悩み,専門職労働問題に閉塞する現代図書館に示唆を得たいものである。

 同“法則”の第5項目に“A Library is Growing Organism”とある。公共図書館はJapan as No.1の時代の勢いもあって20世紀最後四半世紀飛躍を示した。「失われた十年」と言われる経済失速の最近年においても情報機器の使用空間を提供していた施設や勉強場所的施設が閉鎖に至ったのとは逆に,図書館では館数,職員数,貸出数の増加が見られた。公民館などが経営困難となり“図書館”に転向する例などもあり,司書が利用者と資料を結ぶという図書館機能の優位性を感じさせられるものでもある。

 ただこうした図書館における開館の日数・時間数の増加などは,指定管理者制度等の増加,非正規職員過半数化という総体的賃金の切り下げ(低賃金化)を隠れ蓑として長年にわたって行われてきた。

 指定管理者制度については,民間力の活用,サービスの向上が言われる。だがそれは結局,図書館に真のgrowingをもたらさない。その証明とも言える調査結果が出ている。「図書館サービスは無料であるため,利用者が増え,また貸出冊数が増えれば管理者の業務量は増加する。したがって,利用促進が逆インセンティブになることがある。」(図書館・博物館等への指定管理者制度導入に関する調査研究報告書,三菱総合研究所,2010)「平成21年度文部科学省委託:図書館・博物館における地域の地の拠点推進事業」が記したものである。指定管理者制度の導入が利用者へのサービスを減殺し,図書館におけるgrowingに逆行することを,まさに示している。

 こうしたなか,関西のある都市が,低いサービスの指数改善を名目に掲げた図書館本館の移転新開設に,パブ・コメで住民が大反対した。保育所その他喫緊の施設を優先すべしなどとの意見が多かった。

 唐突の図書館成長計画は似た形を採ることが多い。

 大概は指定管理者ほかへ委託,資料費は緊縮される。他方,ICT化が強行される。ICタグ,自動貸出し(無人図書館),電子書籍の導入などである。

 図書館とICタグ/清水隆[ほか]著,日本図書館協会,2005,同書によると,新設公共図書館へのICタグの導入は必然の流れのようにも見られる。その効果は,貸出作業を大幅に軽減し,蔵書点検の人手と,そのための閉鎖時間を大幅に縮小する。だが,検討を要する問題がある。例えば蔵書冊数5万冊以下,年間貸出冊数10万冊以下の単独館には向かないと言われる。技術面で,チップは表紙内側に貼られるから蔵書点検が必ずしも流れるようには進まない。逆に,性能を高めると貸出手続きで無関係な資料まで貸出記録に巻きこんでしまう。ICタグの寿命は約10年,長期資料を保管する大図書館が採用した場合,更新作業が面倒である。最も懸念されるのは,新設時に教育委員会主導でICタグ業者と折衝がなされ,結果だけ指定管理者に投げられたような場合である。指定管理者との間で,ICタグの構造,管理の詳細にわたる契約が交わされず,システム内の他機との連動も精確には維持できない事態をも招来しそうである。ICタグ業者によっては中途で放り出すケースもある(清水[ほか].前掲書)。継続してその図書館に責任を持ちうる職員が,導入の是非を含め,図書館専門職の立場から決定すべきである。Growingの要は専任司書の定着である。

 『電子書籍の衝撃』の今日,iPadを提供しようとするような館の例を見る。デジタル資源の提供には著作権料問題が伴う。これを警戒して館内閲覧提供に留めるという妥協策も聞こえてくる。だがランガナタンが他の“原則”で言うとおり,総ての人に,すべての公開資料を提供するという原則に背いてはならない。結局は“図書館無料”原則に帰結する。

 著作権者への弁済は当然である。放置中の公貸権立法と真に取組み,国がその支弁法を明示すべきある。

(しほた つとむ 理事・桃山学院大学)