《座標》『図書館界』48巻2号 (July 1996)


講習科目の実務経験による免除
-やるなら自己申告こそ望ましい-

塩見 昇

数年来検討が続けられていた司書講習科目の改訂構想が4月24日,生涯学習審議会社会教育分科審議会から報告として文部省に提出された。今後,これを基に,文部省が省令化し,早ければ1997年度の講習から実施に移るものと思われる。かねてより24単位程度に単位数を増やすこと,現代的な観点からの必要な科目などカリキュラムの内容等について多くの議論がなされてきた問題である。そのことでの今度の報告に盛られた内容についての所感も多々あるが,ここでは,今回初めて打ち出された実務経験による受講科目の減免措置に関する点にしぼって,報告の問題点を指摘し,一つの提案をしたいと思う。

報告はこの件について次のように述べている。
「生涯学習社会にふさわしい開かれた資格制度とする観点から,司書講習においては,司書資格の水準の維持に留意しつつ,司書資格取得のための専門知識の修得として適当と思われる実務経験又は他の資格を適正に評価して,相当する分野の科目を免除することが適当である」。そして,その具体的な内容の一部として,公・私立図書館の職員(2年以上)   図書館サービス論  2単位国会・大学図書館の職員(2年以上)  資料組織概説  2単位司書教諭資格所持者    児童サービス論,コミュニケーション論 各1単位国家公務員採用試験合格者(ⅠⅠ種図書館学)図書館概論,図書館資料論,資料組織概説 各2単位をそれぞれ免除するのが妥当としている。

実務経験による受講科目の減免は,かねてから文部省が繰り返し提起してきたことであり,学習社会においては生涯学習の成果がそれとして評価されることが重要だという主張に拠っている。しかし,ここに挙げられている内容が受講免除の根拠としていかに噴飯物であるかは,だれの目にも明白であろう。国会図書館や大学図書館に2年以上勤務すれば分類法,目録法等資料組織法に精通している,などとどうして言えるのか。現在の司書教諭資格が実務経験(名目上でも4年以上図書係をしたという程度)による免除により「図書の整理」2単位で取得できる資格であることを承知の上での提起であるのか。これまで専ら図書館サービス論(図書館活動)を主担してきた私などは,無資格で公共図書館で何年か仕事をし,いくらか課題意識を持った人にこそ,ぜひ「図書館サービス論」を勉強してほしいと思うのだがいかがなものだろうか。

いかに文部省の御用審議会の場であり,文部省の意向が強かったにせよ,審議会に名を連ねた図書館学教育者は,少なくともそのことについて,自己の教育実践,職務に照らして,この減免措置の「合理性」を図書館界にきちんと説明をする責任があるのではないか。ことは将来にわたる極めて重要な内容であり,問題である。

文部省が好んで強調する生涯学習社会の論拠で言えば,周知のように,エーリッヒ・フロムが今後の社会,人間の生き方として,「持つこと」(to have)ではなく「あること」(to be)をこそ重視すべきだと述べている。これに照らせば,過去に〇〇の資格を取得した,〇〇で働いたことがある,ということが大事なのではなく,いま現にどうあるかを評価することにこそ重きを置くべきであろう。

とすれば,百歩譲ってどうしても実務経験を何らか生かそうというのなら,受講者本人が自己申告するシステムこそ望ましいのではないか。私は〇〇のキャリアがあるので「資料組織概説」は十分マスターしているということを申告し,受講の免除を申し出る。その上で試験によってその成果の程を試してもらう,というのがよほど合理的ではないか。もちろん全科目受講免除というわけにはいかないから,キャリアに応じて一定の科目数もしくは単位数まで受講免除の申告ができる,というような制度を採ることを代案として提唱したい。

それこそが学習社会にふさわしい,生涯学習の成果をそれとして評価する仕組みであろう。

(しおみ のぼる 大阪教育大学)