《座標》『図書館界』50巻2号 (July 1998)


有資格者配置のために

松井 純子

昨年から今年にかけて、図書館界はまるで「群発地震」に見舞われたかのようだ。

「群発地震」とは、国の行政改革と地方分権推進委員会による規制緩和要求を「震源」とする以下のようなことがらである。
 1)文部省の図書館建設補助金の廃止、2)地方分権推進委員会第2次勧告における国庫補助を受ける際の館長の司書資格要件の廃止、3)同じく司書の配置基準などを含めた最低基準の廃止、加えて4)図書館サービスの無料原則の見直しなどを含めた図書館法改正問題。
これら一連の動きは、国がこれまで実施してきた図書館政策に関する方針を大きく転換し、公立図書館のあり方を根底から揺さぶっているという意味で、「かつて経験したことのない」(注1)事態と言える。これに対して、日本図書館協会の主導の下、さまざまな対策が講じられてはいるが、この動きを押し止めることは残念ながら実現していない。1)はすでに決定され、2)~4)についても、生涯学習審議会が本年3月に発表した「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について(中間まとめ)」(注2)に盛り込まれて、国の方針として確定しつつある。

ところで『図書館雑誌』98年5月号に、上記2),3)の問題をどのようにとらえるべきかについて、薬袋秀樹氏の投稿論文が掲載されており、興味深く拝読した。薬袋氏は、地方分権推進委員会は司書と有資格館長が不要だと主張しているのではなく、資格取得方法の硬直性を批判しているのであり、「今、図書館界に最も必要なのは、司書資格の取得方法の改革に取り組むことである」と結論付けている。
たしかに地方では司書資格の取得が困難で、有資格者の配置がままならないのが現実であろう。しかし「第2次勧告」で要求されたのは資格取得方法の見直しや配置基準の緩和ではなく、館長の資格要件と司書の配置基準そのものの「廃止」である。そこには大きなギャップが存在するし、「廃止」自体は事実として受け止めねばならないと思う。
その一方で「第2次勧告」は言う。「必置規制が廃止・緩和されたとしても、地方公共団体が必要な行政サービスの低下を招くことがあってはならず、職員や組織の(中略)柔軟な設置を可能とすることにより、(中略)地域の実情に最もふさわしい体制で行政サービスを提供することができるようになり、そのことが機動的で充実したサービスの提供、即ち行政の質の向上にもつながるものである」と。
そして生涯学習審議会の「中間まとめ」でもこれを取り上げ、「この指摘は重要であり、特に留意する必要がある」(注3)とまで述べている。

しかし、やはり危惧はある。資格がなくてもその自治体で最もふさわしい人材と判断されればその人を配置できるというのであれば、自治体が積極的に有資格者を配置しようと考えない限り、司書や有資格館長の恒常的配置は望めないのではないか。また、そのことで図書館運営に特段の支障がないと判断された場合、資格を持たない者が配置され続けるのではないか。その結果、サービスが目に見えて低下するわけではないが、向上もしないという図書館運営が行われることになりはしないか。
サービスの低下は目に見える形で進行することはあまりない。また、一度低下したものを改善することも並大抵でない。日頃からよほどの注意を払わねば、第2次勧告のいう「充実したサービスの提供あるいは行政の質の向上」は果たせないのではないか。図書館の場合、司書という専門職の配置がまさにそのことに直結している。

地方の自治体関係者には、司書を配置することによって得られる図書館サービスの正しい評価と、有資格者を幅広く求める積極的な人材募集を行っていただきたい。住民の意思にもとづいて充実した図書館サービスを提供することが公立図書館設置者としての自治体の責任であり、また、図書館で働きたいという希望を持つ人達すべてが大都市圏での採用を望んでいるわけではないと思うからである。

(まつい じゅんこ 大阪芸術大学)