《座標》『図書館界』54巻4号 (November 2002)


大学の変貌と,図書館・情報利用教育への期待

志保田 務

わが国の大学は「冬の時代」のなか,それぞれに生き残り策を講じて来た。1990年代には,学部・学科増,短大の4年制新学部化等が図られた。これらは実質的に,バブルの陰で得た臨時定員(増)を,大学内部に留保しようとする,間口の守備とも言える。
だが少子化,デフレとなり「大学全入」が見え,定員割れが現実となる。「定員割れ」の下に,定員枠の実質増を望むような策は矛盾であろう。大学の再興には,方向変換が必要であった。

文部科学省は大学の再編成を進める。国立大学の独立法人化・合併,「トップ30大学」,「教育力の100大学の選定」等と,国庫助成の極端な傾斜配分計画が潜行し,大学の生存競争が煽られている。大学には教育・研究自体の深化,いわば奥行きの線での強化が求められた。そこには二つの方向が見られる。

一つは,「法科大学院」等格上げ志向と,再編成,たとえば教養部の専門学部化等があげられる。他の一つは,大学入門講座など基礎教育力の強化である。
後者は「教養再生」の一環と見ることができるのではないか。そこには図書館,情報利用教育などが入っている。本稿はこの関係事を論点の一つとする。

大学変革の波は,図書館情報学,その関係教員(常勤)に当然及んでいる。大きな波は,担当教員の定年に伴う不補充(非常勤化)として現れた。別の波は,専門コースの発展的解消,司書課程教員の学内移籍等である。この最後の問題,教員異動を本稿は更に一つの切り口とする。論法的には一つの大学を仮想して考察を進める。

その大学は1970年代に司書課程を開き,1980年代初頭,図書館学の専任教員をおいた。この教員は社会学部に配属された。図書館学を社会学に近いと考え,同学部内に図書館学コースを予定していた。だが1990年代初頭,新設の文学部に教養系全教員を集めた。ところがさらに,2002年度それらの教員を,希望する学部へと再び配置替えした。他大学では「教養部解体」の現実もあった。この再配置替えで,図書館情報学教員は経営学部所属を選択した。同教員は「教養」に執着していたのであろう。

この経営学部は同大学中で,専門と共に基礎教育を重視していた。第1回生に開講していた経営学基礎講義を,少人数の「基礎演習」に転じ,次年度初め更に「大学生活入門講座」に衣替えした(半期2単位)。「教養回帰」とも言える流れをも見せていた。

同科目の共通綱目として「聞く」,「ノートをとる」,「発表する」等が挙げられている。ただこれらは例に過ぎない。必須は,「図書館利用」,「情報センター利用」である。同学部のその年度の情報利用関係学習は,集団で対象機関に出かけ一通りの説明を受ける形で終わった。
このことが逆に同科目共通のテキストの探求,編集計画の端緒となった。大学入門講座全般としては,学習技術研究会編著『知へのステップ―大学生からのスタディ・スキルズ:CD‐ROM付き』(くろしお出版,2002)が適書の一つと合意された。図書館利用教育に関しては幾種かのテキストがある。ただ各大学それぞれに密着した利用教育教材が必要であろう。そうした例として,川崎良孝編『大学生と「情報の活用」:情報探索入門』(増補版 京都大学図書館情報学研究会,2001)が,情報教育系では,慶応義塾大学日吉メディアセンター編『情報リテラシー入門』(2002)等があげられる。

変貌する時代の大学における図書館情報学教員の働きの一つは,上述の一大学における「大学生活入門」のような科目の担当や関係教材の作成にあるのではなかろうか。また,大学によっては図書館と無関係に在る情報センターの利用教育に図書館学教員が関与する必要がある。フローの情報を柱にしている情報センターは,図書館界が長年ストックした理念,利用指導の所産を,活用することが必要であろう。

丸本郁子ほかによって,図書館利用者教育の科目開設が主張されて久しい(『大学図書館の利用者教育』日本図書館協会,1989)。情報利用教育が注目される現代,図書館界で耕された図書館利用教育に,一層の議論を深めたいものである。

(しほた つとむ 理事・桃山学院大学)