《座標》『図書館界』55巻6号 (March 2004)


競争的環境と資源共有

渡邊 隆弘

 本稿が発表される時点では2004年4月からの国立大学法人化がまさに秒読み段階となっているが,大学改革の最大のキーワードは,第三者の評価に基づいた資源配分を行う「競争的環境」である。学術研究の適正な評価とは何かという大問題はあるが,より価値のある研究活動・成果への傾斜的な投資は,いちおう素朴に首肯されることだろう。

 各大学が競争にさらされていく中で,これまで国立大学図書館で常に叫ばれてきた「相互協力」や「連携活動」の行方が一つの課題である。分担保存のように実効性ある進展を得られていない課題もあるものの,得てきた成果はそれなりに大きい。とりわけ80年代以降,学術情報ネットワーク上に形成された全国総合目録と,それをベースとして相互協力(複写・貸借)を行うILLシステムは,国立以外の諸機関をも含んで,他館種と比しても諸外国と比しても見劣りしない,大きな財産に育った。もとより法人化で競争だからといって,図書館関係者にはその重要性はよくわかっているし,当面後退するような動きがあるわけではない。連合組織である国立大学図書館協議会は「国立大学図書館協会」への移行が決まり更なる活性化をめざしているし,ILLのシステム運用を担当する国立情報学研究所では国公私立を含めた料金相殺の新システムを開始することが決まっている。

 とはいえ,法案成立から9ヶ月足らずという多分に「泥縄式」の法人移行である。各大学における図書館の位置づけや図書館活動一つ一つの意味づけが本当に問われることになるのは,動き出した後のことになるところが多いだろう。そのとき,協力活動などをどう位置づけて説明できるだろうか。ILL業務だけをとってみても,筆者の勤務校(極端に多いところではない)で年間に他大学からの依頼が複写20,000件以上,貸借2,000件以上あり,人件費などのコストは大変大きい。もとより学術情報流通の様相は激変期にあるが,こうしたやりとりが急に不要になるとは考えにくい。料金体系見直しをにらんだコスト計算なども各大学で行われているが,完全な独立採算(受益者負担)は現実的でない。

 この問題を考えるうえで注意すべきことは,競争の結果として大学や研究者たちへ配分される「資源」の中心は「研究資金」だということである。もちろん給与などの成果配分も話題になってはいるが,一般的な労働や事業行為と比べると,モチベーションを鼓舞する効果は薄い。研究活動というのは,国内外の学術コミュニティ内での競争・評価と,そして何よりも学問そのものに対する内発的なパッションが原動力であるから,研究者にとっては資金を含む研究環境の整備が最大の誘因となる。

 傾斜配分されるものが研究資金であれば,当事者の懐に入るわけではなく,基本的には引き続く競争の原資として用いられる。従って,実施・評価・成果配分という競争のサイクルは,繰り返されるうちに公正さの必要条件である「出発点の平等性」が次第に失われていく危険をはらんでいる。図書館がもっぱら担っている学術情報へのアクセス環境整備は,研究支援環境の中で大きなファクターの一つであり,研究資金の少なからぬ部分を割いて整えられているが,競争の「結果」によってアクセス可能な学術情報の量・質が決定的に左右されるということでは,競争の公正さが保たれない。

 先に本誌では,「シリーズ・21世紀」企画として論議された柴田正美氏の「大学図書館連合体」論(53巻2号)があり,大学間格差を解消する図書館サービス「平準化」が主張されている。私は,図書館運営は個々の大学運営と密接に関連して行われるのが本来だと考えているが,資源共有という視点は,競争的環境であるからこそますます必要である。すなわち,大学図書館は,学術コミュニティの中で情報をなるべく共有して情報格差を縮めるという,一大学を超えた社会的役割をも持っていると考えるべきである(さらにいえば,「一般開放」といったこともその延長上にあるだろう)。

 大学内でも全国レベルでも,長い間かかって学術情報資源の共有化は確実に進んできた。競争的環境のもとで再び「囲い込み」が発生することがあってはならない。

(わたなべ たかひろ 理事・神戸大学図書館)