《座標》『図書館界』56巻4号 (November 2004)


公立図書館に明日はない!?

西村 一夫

 読売新聞2003年7月13日付朝刊に「図書館・特養ホームなど公共施設民間委託門戸開放」という記事が載った。9月をめどに地方自治法の改正が行われ自治体が設置した公共施設の管理運営を民間企業に委託できるようになるというもので,「24時間開いている区立図書館」が委託例として挙げられていた。しかし,記事では管理委託は可としつつも留意点に教育委員会が館長を任命するとあり,簡単には委託が進まないという印象であった。また,法改正の内容がまだ明確にはなっていなかったと思われるが,「指定管理者制度」についての言及もなく,いろんな施設の管理に民間が参入してくるのは困ったなあという程度の感じであった。

 今年1月,「指定管理者」についての情報がもたらされ,公の施設の管理を公共的団体だけではなく民間企業へも委託できるという内容であった。東京23区などで行われている窓口委託よりもっと問題の多い委託だということがおぼろげながら判ってきた。そこへ2月になって大阪府内では長い歴史もあり旺盛な図書館活動を行っている堺市で,2005年に開館する分館を指定管理者に委託し,その後順次各図書館の委託を進めていくという提案が労働組合にあった。これを知った市民や府内の図書館関係者も含めた反対運動が行われ,堺市は「法的整備」が整わないので当面は指定管理者制度の導入を見合わせ,業務委託により分館の開館を進めようとしている。

 ところが大阪府大東市が図書館運営特区において,「指定管理者制度を活用する公立図書館の館長必置規制の弾力的運用」と「指定管理者制度を活用する公立図書館の専門的職員等の設置規定の弾力的運用」について提案していた。文部科学省は「図書館に館長を置く必要はあるが,公務員ではない館長や専門的職員等については教育委員会が任命する必要はない」と回答し,指定管理者に委託した図書館には教育委員会が任命する館長も専門的職員も置かなくてよいとする,図書館法も地方教育行政の組織及び運営に関する法律もねじまげて,内閣府や総務省の圧力に屈し,自らの大義を曲げる解釈を行った。

 自治体の中にはすでに指定管理者の指定手続きに関する条例を制定しているところもあるが,多くはこれからである。いずれにしても公の施設のひとつである公立図書館についても指定管理者の導入の可否が論じられており,法的制約がないとする解釈の下では導入されるのも時間の問題である。現時点では指定管理者制度を導入している公立図書館はまだ無いようである。しかし,堺市や大東市以外にもその動きが広まっており,文部科学省のお墨付きによって,堺市で再び提案がなされるであろうし,いままで二の足を踏んでいた自治体が一気に図書館への指定管理者制度の導入の検討に入るであろう。

 指定管理者による図書館運営では,(1)それぞれの図書館における貸出や予約の処理,レファレンスのやり方,選書方法など図書館活動のノウハウは企業秘密となり,企業内研修は行われても他館との交流は行われなくなる,(2)サービス内容についても当初は直営のときのままを踏襲するであろうが,時間がたつとともに部分的に費用負担が発生することもある。例えば他の図書館からの資料の借用やインターネットの利用などが考えられる,(3)指定管理者による受託期間は多くの場合数年程度であり,もし指定管理者が変更されるとサービスの方法や内容が変更されることも考えられ,市民が迷惑をこうむることも十分に考えられる,など多くの問題がある。

 公立図書館は図書館法により利用は無料となっているので,指定管理者制度の導入は難しいと考えられているが,図書館予算の多くは人件費であり,その削減を中心とした方法を考えればそれほど難しくはない。したがって公立図書館への指定管理者制度の導入を防ぐには,指定管理者による図書館運営の問題点を明らかにするとともに,図書館がみずから夜間や祝日の開館など市民サービスを広げるとともに,図書館運営のスリム化についても検討しなければならないであろう。

 地方財政危機の中で身動きの取れない公立図書館が,こうした文部科学省の動きの中でさらに一層困難な状況に追い込まれようとしている。

(にしむら かずお 理事・松原市民図書館)