《座標》『図書館界』57巻6号 (Mar. 2006)


国立大学附属図書館のゆくえ

:法人化の課題と現実その2

寒川 登

 2003年9月に同じテーマで国立大学の法人化前夜のことを書いた。あれから3年,大学と大学図書館が法人化のなかでどう変化したのか見ておきたい。

科学技術基本計画と運営費交付金

 「科学技術基本計画」は1994年の科学技術基本法制定を契機として策定され,今日まで,日本の科学技術の振興策を5年単位で計画化し,予算化して実行されてきたものである。第1期(1996年度~)実質18兆円,第2期(2001年度~)実質21兆円であった。これから始まる2006年度からの第3期では,GDP1%にあたる25兆円の目標が2005年12月に紆余曲折のなかで決められた。この計画には文科省をはじめとして,総務,厚労,農水,経産,国交,環境等の各省が関与しているが,文科省の占める比率が大きい。行革のなか,科学技術予算は“例外的”に強化され執行されてきた数少ない分野である。その根拠となったのが,数値目標を堅持したこの計画である。

 しかし,この計画は底上げ型の振興策ではなく,特定重点分野に関する選別振興策であるため,当然のことながら,選からはずれたところには何もこない。競争の努力は必要であるが,こうしたところにも中小規模,人文系の大学の苦しさが現れてくる。

 法人化以来,大学が教学活動をしていくための通常の予算は国からの運営費交付金によって賄われているが,今期の中期目標期間中(2004~2009年度)はこの予算に対して効率化係数1%がかけられ,その分が毎年機械的に減少している。そのため,現状の教育,研究,サービス内容を維持するだけでも厳しい状況がでてきている。このことから,結果的に基礎的な研究費予算配分の大幅な減少につながっている。聞き知っている範囲でも,法人化前と後を比較すると,およそ半減というところもある。これが現実である。本もジャーナルも満足には買えない。加えて電子ジャーナル関係の年々の値上がりによる大学予算への影響という要素もあり,先の見えない苦しさは増す一方である。

人件費比率という尺度

 人文系等の大学で企業の設備投資にあたるものと言えば,妙な言い方ではあるが,人材と実験関係設備,図書資料等であろう。優れた教育や研究を行うためには,これらの確保と環境整備は欠かせない。このことを制度的に担保するために,国によって,学生数,教員数その他職員数など様々なことが,緩和されたとは言え,きめ細かく示されてきた。ここでは,教育の質の確保を行うために必要なものごとが規定されており,これまではこれが尺度であった。 しかし,ここにきて人件費比率というこれまであえて積極的には適用してこなかった尺度が台頭してきている。比較的に少人数教育を行ってきた国立大学では,これで物事をくらべると,異様に高く映ってしまう。その結果が研究職の欠員不補充ということになって現れてきている。これまでにその他職員と言われる図書館関係を含む事務系職員の削減は,既に相当程度まで行われ,正職員と並んで,非常勤,派遣,委託など様々な雇用形態の職員によって業務が行われることが常態化している。こうした波が研究職の実人員にまで影響を及ぼすところまできたということである。人件費比率という尺度の前で,これを下げるためには,学生増募か予算増か人員効率化のいずれかしかない。前二者ができなければ選択の余地はない。コスト至上主義ではないと思うが,これでいいのかという懸念はたえずある。

館長職のゆくえ

 大学図書館の館長職は,当該ポストに座った館長の個性にもよるが,時に,全国の大学図書館をリードし,素晴らしい貢献をする館長を生み出す。大学図書館界でも館長の役割は重要である。しかし,法人化後の組織や機構整備のなかで,全国の国立大学89校のうち,2005年5月現在で30校が,これまでの教授をもってあてる図書館の館長職を,副学長もしくは理事等の兼務職に変更している。このことがどのように効いてくるのかまだ見えないが,大学経営を担う執行部に直結することのメリットを強調する意見もある一方で,現場運営の責任者という立場を兼ねることの難しさを指摘する声もある。館長という立場で自由にものを言うことの大切さが失われていくのではないかと危惧する。

(さむかわ のぼる 理事・大阪教育大学附属図書館)