《座標》『図書館界』60巻2号 (July 2008)


新しい目録規則に向けて

渡邊 隆弘

 目録規則をめぐっては,「パリ原則」(1961)以来の基本的枠組みを見直す作業が進行中である。具体的には,IFLAによる「国際目録原則」(パリ原則に代わるもの)の策定や,「英米目録規則第2版(AACR2)」の抜本的改訂が代表的なものである。遅ればせながらコンピュータ目録を前提とした規則とすることに加えて,インターネット時代にあって,図書館だけの閉じた仕組みではなく他の世界との「相互運用性」をはかれる枠組みとすることなどが求められている。

 このうちAACR2の改訂作業は2002年から本格的に開始され,現在までにかなりの紆余曲折を経ている。当初は,「AACR3」として2004年12月に「書誌記述」を扱う部分の草案が作成されたが,翌2005年4月の会議で白紙に戻り,タイトルもAACR3から「RDA(Resource Description and Access)」に変更するとの方針が示された。「目録(Cataloging)」の語が含まれない新タイトルの登場に,ある種の感慨を覚えたのを記憶している。

 その後2005年12月から2006年6月にかけて新たな草案が順次公開されていったが,この過程でも途中で部構成の変更が行われたし,一部の章は2007年に入って二次草案が示された。それでも2007年夏の時点では残された部分のスケジュールも固まり,落ち着くかに思われた。ところが同年10月の会議では,全体を10のセクションからなる構成にがらりと変えるという決定がなされた。詳細を述べる余裕はないが,「書誌レコードの機能要件(FRBR)」の概念モデルにより密着した,現行規則とは全く異なる順序立てである。

 当初2006年とされた新版刊行時期は次第に遅れて,2009年に延びた。昨秋以降スケジュール通りに草案が出され,2008年7月には最終草案が姿を現すはずである。しかし,もう動くことはないのか,一抹の不安を感じるのも正直なところである。

 さて,このような経緯を「迷走」と形容することも間違いでなかろうが,そう言いたくて本欄に紹介したのではない。この経過の背後には,公開される方針・草案に対して寄せられる,英語圏の図書館界からの容赦ない批判がある。関係団体を通じて直接寄せられる意見は「RDA開発合同委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA)」のWWWサイトにすべて掲載されているが,まことに膨大なものであり,内容も根本的な方針から条項の細部まで実に多岐にわたる。加えて,論文などの形で,あるいはブログやメーリングリストを通じても,様々な意見表明があふれている。

 委員会(各国の図書館協会と国立図書館の代表委員で構成)が,そうした館界の議論と向き合って検討を重ね,時には自己批判も厭わなかった姿勢が,この経緯にあらわれているように思う。もちろん意見には多様な幅があり,「足して2で割る」ことができる性質の話ではないので,刊行後も批判の声が残ることは間違いないといえようが。

 このようなことを思うのは,私が2006年から日本図書館協会の目録委員会委員をつとめており,いずれ「日本目録規則(NCR)」の改訂作業に関わることが予想されるからである。NCRの次期改訂は方向性やスケジュールを示唆できるような段階では全くないのだが,いずれ作業がはじまったとして,どれだけ館界の議論を集めることができるだろうか,と思うのである。英語圏での議論を見るにつけ,専門職・専門性の「厚み」の差を感じる。

 私は1985年に図書館の世界に入ったので,実体験としては現行のNCR1987年版しか知らないようなものだが,過去の文献をみれば,1965年版,新版予備版(1977年),1987年版と進む過程では,様々な議論が展開されていたことがわかる。この『図書館界』も主要な舞台の一つであるし,現在私がお世話をするめぐりあわせとなっている「情報組織化研究グループ(旧・整理技術研究グループ)」も何度か関わっている。

 幸い,情報環境の進展に伴って,目録に対する注目(危機認識という側面を含めて)は,図書館現場でもやや高まっているように感じられる面もある。これからの時代を担う若い人たちを含め,幅広い議論のうえに,次世代の標準化(何も目録規則だけの問題ではないが)がなされていくことを願っている。

(わたなべ たかひろ 理事・帝塚山学院大学)