座標『図書館界』61巻2号 (July 2009)

《座標》『図書館界』61巻2号 (July 2009)


「女の本屋」からのメッセージ

木下 みゆき

 2009年3月,ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)1階にあった小さな書店の幕が閉じられた。お店の名前は「ウィメンズブックストアゆう」,長年のお付き合いの方は創設時の名称「松香堂書店」で呼んでおられたかもしれない。

 1982年,中西豊子さんが京都に日本初の女性関連の専門書店を開いた。その後いかにユニークな経営や活動をなさったかについては,中西さんの著書『女の本屋の物語』(ドメス出版)に詳しく記されている。1994年11月,ドーンセンターのオープンとともに店舗をセンター内に移した。ドーンセンター情報ライブラリーにとっては,一般書店では扱わないグループのミニコミ誌や活動報告書などが居ながらにして収集できるたいへん恵まれた環境であった。書店とライブラリーのスタッフが相互に行き来し,情報交換することは日常茶飯事であった。

 6年前,当ライブラリーの全面的NPO委託が俎上に載せられた。これについて外部の専門家の意見を聴く会議の場で中西さんが,「ドーンのライブラリーができて本当によかったですよ。なんせ,今,ここに寄せられている情報相談のあれこれは,それまでは“困った時の松香堂”と,本屋の商売にならへんのに何でもうちに聞いてきはったのですから」と京都弁で発言された。「全面的に担えるNPOは存在しない。府が責任を持って担ってほしい」と締めくくられ,私は当ライブラリーへの最大のほめことばをいただいて嬉しかったことをはっきりと覚えている。これらの相談とは,まずは,主に行政関係者から寄せられるジェンダー問題関連の講座企画についての相談,講師や各種委員候補のための人材情報についての問い合わせのことである。さらに,「母娘関係で悩んでいる人たちのグループを知りませんか?」「離婚について女性の弁護士さんに相談したいのですが…」など,個々人の問題解決に必要なグループや社会資源につなげる情報提供も含まれる。

 結城美惠子さんは著書『情報からの自立』(ユック舎)の中で「ゆう」を取り上げ,「書店であるにもかかわらず,いろいろな事情を抱えた女性たちが相談に訪れたそうだ。ニーズがあるのだからと,書店の二階に「女のスペース」として相談室を設け,その役割も果たすようになる。(中略)今でこそ女性センターは情報,研修,相談を主な機能としてその役割を果たしているが,それをこの小さな書店が実践していたわけだ」と述べている。

 昨年度,大阪府財政再建プログラムによる当ライブラリー資料を大阪府立図書館に移すという案に対し,たくさんの府民が「ドーンセンターの中にないとだめなのよ!」と声をあげて応援してくださった。もしかしたら,関西には「女の本屋」が切り拓いた情報発信や情報活用の豊かなイメージが根付いていて,それを女性情報の専門図書館像と重ねてとらえる女性たちが多く存在するのではないだろうか。自分たちの活動やドーンセンターのプログラムとつながりのないライブラリーなど,全く魅力も意味もないことを「ここにないとだめ」ということばで表現してくださったのだと思う。

 ドーンセンターでは年度初めに,市町村で新たに男女共同参画施策や女性センターの仕事に携わる職員を対象とした研修講座を実施している。私は情報に関するコマの中で必ず,「女性情報とは,あらゆる分野の情報をジェンダーの視点で捉えたもの」とお伝えしている。思い起こせば,中西さんにご尽力いただいた開館前の収集資料リストアップの際,NDC0類から9類までの全てに該当テーマをつける作業から始めたということがあった。この考え方は女性問題図書というと「NDC367.2」で想像力がストップしていた女性情報初心者の当時の私にはとても新鮮で,その後の書架づくりやテーマ別資料展示の企画などの基本コンセプトを得た。

 閉店の背景には様々な要因があるだろうが,残念ながら,ドーンセンターを含め,資料の多くを「ゆう」から購入していた全国の女性センター図書館の資料費削減もその一つであろう。男女共同参画社会をめざす活動や女性たちのエンパワメントに,女性情報の活用は欠かすことができない。この思いを長年にわたって共有し,伴走した「女の本屋」の志を女性センター図書館がしっかりと引継ぎたい。

(きのした みゆき 理事 大阪府立男女共同参画・青少年センター)