座標『図書館界』61巻6号 (Mar., 2010)

《座標》『図書館界』61巻6号 (Mar., 2010)


学校の中に図書館があることの意味

高木 享子

 公立小学校の図書館で仕事をしている。ある時5年の男子が『広辞苑』(岩波書店)を借りたいとやってきた。『広辞苑』で“遊びたい”とのこと。「一人が適当にページを開き,そこにのっている面白いことばや説明を読み,聞き手は笑ったら負け」というゲームをするのだそうだ。愉快な話だが,よく聞くと「ピラメキーノ」というテレビ番組の中で行なわれている“辞書めっこ”(辞書+にらめっこ?)という遊びの影響だということがわかった。ドラマ「小公女セイラ」が始まったとたんに『小公女』に予約がかかったり,「ハリーポッター」が放映されるとこのシリーズの本がまた貸し出されることもある。テレビの影響から本に興味を持つことはよくあることだ。だが『学校図書館』No.709(2009年11月号)にはさらに子どもの実態を知る報告が載っている。

 全国学校図書館協議会が毎年行なう学校読書調査で,「世の中のできごとを知る情報源」として小・中・高校生とも「圧倒的なテレビの影響力」があると報告されていた。新聞からの情報は高校生になるとインターネット情報(携帯電話)に取って代わられている。興味ある新聞欄はテレビ・ラジオ番組表,スポーツ記事であり,最下位は社説である。情報も娯楽もテレビの影響は大きい。そして年齢が高くなるにつれ,テレビからインターネット(携帯・パソコン)の世界に移行していく。こういった日常にある子どもたちだからこそ,図書館のもつ力を体感し多様なメディアから学ぶ力も身につけてほしいと願う。

 ところで,学校での読書は,時に「教科書に紹介されている本」「伝記の本」といった教科に関連したテーマが課題として出されることがある。学校司書は,教師と相談しながら関連本の紹介や複本の用意など,各クラスに応じた支援に努める。週に一度ある図書の時間には,発達段階を意識しながら絵本,物語,科学読み物などの読み語りや紹介に心がける。一方,一人ひとりの子どもたちの「読みたい・知りたい」気持ちにも可能な限り支援する。子どもがいろいろな観点から本への興味関心を深め,楽しい読書体験ができるよう日々試行錯誤している。

 さて,始めに紹介した“辞書めっこ”は好評で,クラスの中でも広がり,他の子どもも借りに来るようになったが,この時期偶然にも6年生は『広辞苑』を作った新村出・猛親子について書かれている「ことばの意味を追って」(国語)の学習中であった。『広辞苑』の前身である『辞苑』(1935年)出版をきっかけに,さらに正確でいろいろな目的をもった人に役立つ辞典作りを目指したが,戦争の影響もあり初版本が出版されるまでに25年もの歳月がかかったという苦闘の歴史が書かれている。見出し語一つ一つに対する新村親子や編集スタッフの真摯な姿勢にも胸を打たれる内容である。6年担任からの依頼で初版本から第6版までを提供した。

 ところで,総合的な学習を始める前には,図書館資料を上手に活用できるように百科事典,年鑑,図鑑類,辞典類など参考図書の紹介をその時々のテーマに即しながら行なっている。今『広辞苑』をクラスの仲間との遊びや学習に使っている5年の男子たちは,6年になって「ことばの意味を追って」を学習した時に『広辞苑』に対してどういう感情を覚えるだろうか。教科書ではこの説明文の後に,「国語辞典とはどのようなものか」「『広辞苑』の特長と出版までの流れ」「新村親子の辞典作りにかける情熱」を整理し,辞典作りについて分かったことをまとめよう,とある。新村親子に対する敬服の気持ちは,ただ教科書を読んだだけの子どもよりも深いのは確かだろう。だがそれに加えて,図書館は人間が真摯に取り組んで作った書物の集積(=文化)の場であることにも,いつの日か気づいてほしい。

 大抵の子どもにとって,人生の初期に出会う図書館は学校図書館であろう。おはなしを聞く楽しさ,読書の喜び,「テレビで見たことをもっと詳しく知りたい」というような好奇心,「こんな本があるのか」という知の財産としての書物への驚き等々を,日常的に学校図書館で体験してほしい。そして図書館活用のための学習を小学校の間に計画的に重ねながら,課題解決の力も身につけてほしい。そういう体験を通して図書館が終生身近なものとなるのではないだろうか。生涯学習の視点からも学校の中に図書館があることの意味は大きい。

(たかぎ きょうこ 理事・箕面市立西南小学校)