座標『図書館界』62巻2号 (July 2010)

《座標》『図書館界』62巻2号 (July 2010)


サービスの谷間の利用者

前田 章夫

 2010年4月に2つの団体が相次いで特定非営利活動法人(NPO法人)として認証された。ひとつは大阪府から認証された「NPO法人弱視の子どもたちに絵本を」,もう一つは東京都から認証された「NPO法人大活字文化普及協会」である。

 前者は,弱視の子どもたちが楽しめる絵本などの制作及び制作推進を通じて,視覚障害の子どもたちが楽しく読書のできる環境作りと充実をめざして設立された。また後者は,弱視者(低視力者・高齢者)のための大活字本の制作普及,図書館の利用促進,読書環境整備のための機器開発などを通じて,大活字文化の発展と普及,弱視者にとって暮らしやすい社会を創ることをめざして設立された。

 このふたつの団体に共通しているのは,弱視児(者)のための資料制作を含む読書環境の改善をめざしていることである。

 よく知られているように,公共図書館では1970年代初頭から,視覚障害者への対面朗読,点字図書・録音図書の製作・貸出などの本格的なサービスを開始した。著作権法の問題などさまざまな課題を抱えつつも,それなりの発展を遂げてきた。

 しかしこの発展の陰に大きな抜け穴があったことに気づいている図書館員は少ないのではないだろうか。それは弱視者へのサービスの問題であり,視覚障害のある子どもへのサービスの問題である。

 これまで図書館界では,視覚障害者へのサービスと言いながら,現実には全盲者へのサービスを中核にサービス計画が立てられていた。そのこと自体は,より困難を抱える利用者に対するサービスのノウハウは,他の利用者へのサービスに活用できるという意味で間違いはないといえるが,さらなる展開を図る体力を図書館は持っていなかった。

 例えば,視覚障害者の大半を占める弱視者についての対応を見ても,拡大読書機の設置や大活字本の収集・提供をしている程度で,弱視の人たちが求めている資料やサービスなどについて十分に把握できていたとは言い難い状態にあった。

 弱視者は,メガネやコンタクトでは視力補正ができないだけでなく,視野狭窄(視野が欠けたり狭くなる)や夜盲(暗くなると見えなくなる),昼盲(明るすぎると眩しくて見えない),色覚異常(色の違いが判別できない)などの症状を伴っている人が多い。一人一人の見え方が大きく異なるため,図書館でサービスをする場合にも,本来なら個別に緻密な対応が必要だが,そのこと自体が認識されていなかったと言えるのではないだろうか。

 子どもについても同様である。近くに図書館があり,近所の友だちが図書館に通っていても,視覚障害の子どもが利用できる本がないという理由で図書館から疎外されてきた。子どもにとって地域で仲間とともに育つ大切さは言うまでもないが,そのためのボランティアとの協働を含む図書館の基盤整備が遅れてしまっている。

 弱視者や視覚障害児については,公共図書館だけでなく,多くの点字図書館においてもサービス対象としては外されてきた。まさに図書館サービスの谷間に置かれていたのである。ボランティアグループがその隙間を埋めようと努力してきたが,なかなか埋まらないというのが現実である。

 同様なことが,聴覚障害者の中で大多数を占める難聴者についてもいえる。難聴者がどういう問題を抱えているか,図書館に何を求めているのかも理解しないままに,うちの図書館では手話のできる職員がいないのでサービスできませんと簡単に断ってしまっている。大半の難聴者にとって手話は関係ないにもかかわらずである。

 図書館に毎日のように来館し,閉館まで滞在している高齢者も数多く見かけるが,こうした人に対する図書館員の対応も同じではないだろうか。見ているようで見えていないのではないか,この人たちが図書館に求めていることを掴み,その実現に向けての動きができていないように思われる。

 このように図書館からは特別な配慮や資料が必要な対象者とは認識されていない,サービスの谷間に置かれたままになっている人がたくさんいるのではないか。そのことを念頭に置いて,今一度サービスのあり方を見直す必要があるということだろう。

(まえだ あきお 理事)