座標『図書館界』62巻5号 (Jan., 2010)

《座標》『図書館界』62巻5号 (Jan., 2010)


新しい「日本目録規則」へ

渡邊 隆弘

 「パリ原則」(1961)に代わる新しい「国際目録原則覚書」(2009年2月に完成公表)の策定プロセスとして,IME ICC(国際目録規則のためのIFLA専門家会議)と題した会議が,2003年から2007年にかけて5回にわたって開催された。各国の目録専門家を大陸ごとに集めて「覚書」草案の検討を中心とする議論を行った会議で,筆者もIFLAソウル大会(2006)の直前に開催され,12カ国40名強(日本からは11名)が集まったIME ICC4(ソウル)に参加した。

 その際,議論の前提として示されたことの一つに,当該地域での目録規則の使用状況がある。アジアでは日本・中国・韓国の3カ国が独自の目録規則を持ち,他の国ではAACR2(英米目録規則第2版)が多く用いられているというものであった(実際には,台湾も独自の規則を持っている)。予想の範囲の話でその時は強い印象は受けずに聞き流したように思うが,後になって5回の会議の記録を通覧し,興味深いことに気付いた。欧州各国の参加者によるIME ICC1(2003:フランクフルト)では,AACR2を含めて18個の目録規則が域内にあるとして,それらの比較検討がなされている。中南米諸国を対象としたIME ICC2(2004:ブエノスアイレス)では,域内ではAACR2かスペインの目録規則が用いられていると報告されている。中東諸国を対象としたIME ICC3(2005:カイロ),アフリカ諸国を対象としたIME ICC5(2007:プレトリア)では,いずれも域内に独自の目録規則はなく,AACR2が多く使われているとされている。

 すなわち,独自の目録規則を持っている国は,欧州以外では東アジアにしかないのである。海外事情を見る目は欧米に向きがちで,さらには近隣の中国・韓国にもそれぞれの規則があるので,日本には「日本目録規則(NCR)」があって当たり前と思ってしまうが,必ずしもそうではないということだ。

 こんな話題を持ち出したのは,筆者もメンバーとなっている日本図書館協会目録委員会で次期NCR(「201X年版」)について本格的な検討を開始し,現時点での委員会の考え方をまとめた文書「『日本目録規則』の改訂に向けて」を公表したからである(『図書館雑誌』105巻10号もしくは目録委員会ウェブサイトを参照されたい)。この内容を公にした2010年9月の全国図書館大会奈良大会の分科会には50人以上の方々に参加いただくことができた。

 検討にあたって,「なぜ日本に日本目録規則が必要か?」はまずクリアすべき素朴な問いであり,また素朴ながら難易度の高い問いであった。AACR2に代わる新しい目録規則として2010年6月に刊行されたRDA(Resource Description and Access)は,AACR2に比べて国際化への配慮が一定程度なされたものとなっている。また,FRBR(書誌レコードの機能要件)モデルや国際目録原則,ISBD(国際標準書誌記述)といった国際的な原則・標準には,相互運用性の観点からも当然準拠していくこととなるので,独自といっても本質を異にするようなものができるわけではない。それならばRDAの翻訳版を作って適用してはどうか,との意見もありうる。

 今回目録委員会では,「FRBRモデルに基づきながら,従来の目録からの継続性を保つことができ,日本で現実に使用可能な規則」が必要で,「RDAを翻訳したのでは,その用に適さない」と,「201X年版」に向かう理由を述べている。これだけでは抽象的で平板かもしれないが,今回の文書に示された具体的な懸案事項を理論的・実際的の両面から考え抜いて形にしていくという今後の作業の努力によって,NCRという独自の規則を維持し続けるという選択の当否が評価されると,個人的には考えている。

 ところで,東アジア各国の目録規則はそれぞれ独自に制定・維持されているが,基本記入方式をとらないという,欧米の伝統とは異なった特徴を共有している。本研究会の情報組織化研究グループでは最近アジア地域の規則に興味を持っており,その他どのような特徴を持つのか,それはどのような事情によるものなのか,そして今後新しい姿に向かうに際してどのような意味づけを持つのか,などを整理してみたい。NCRと英米の規則のみをみるのではなく,視点の相対化から得られるものがあるに違いないと考えている。

(わたなべ たかひろ 理事・帝塚山学院大学)