座標『図書館界』63巻5号 (Jan. 2012)

《座標》『図書館界』63巻5号 (Jan. 2012)


琵琶湖を抱きしめる

岸本 岳文

 手をつないで琵琶湖を取り囲もうというイベント「抱きしめてBIWAKO」が,2011年11月6日に開催され16万人を越える参加があった。1987年に当時滋賀県大津市にあった重症心身障害児施設「第一びわこ学園」が,移転費用の調達に苦心していることを知った人たちが,学園を応援しようと行った「抱きしめてBIWAKO」から24年,「母なる湖」ともいわれる琵琶湖の周りで,もう一度「いのち」について考えようということから企画されたものだ。

 湖畔のギャラリーでは滋賀県立図書館で保管していた1987年の「抱きBIWA」の記録写真のパネル展も開催され,26万人が琵琶湖岸に集まったあの時の熱気を思い起こした人も多かった。手をつなぐために1,000円の参加費をなど,ずいぶんと主催者側の身勝手な企画にもかかわらず,学園には1億数千万円が寄付されることとなったのだが,滋賀の人というのは時にこうした不思議な盛り上がりを見せる。

 1980年前後に展開され琵琶湖富栄養化防止条例の制定につながった「石けん運動」もそうだが,県全体に大きなうねりを生み出す核となるところに琵琶湖があり,その存在が地域のことがらを共有の課題として考えさせてくれる基礎になって,人々の横につながっていく力を培ってきたように思えるのだ。

 ここ数年,滋賀県でも各地で図書館を民間に委託する提案が相次いだが,その対応でも滋賀の人たちの連携力の強さを感じさせられた。自分たちの取組みで得た経験を素早く伝えあったことの積み重ねが,図書館協議会などの意見を説得力のあるものにしていった。ある市では「今の図書館には元気がない。図書館のはたらきに期待しているからこそ,民間の活力を」という市長の主張に対して,「図書館員に元気を出せというのなら,まず館長を嘱託ですませている現状を変えて,働きがいのある組織に」との意見が出され,市長がそれを率直に受け入れ専任の司書有資格館長を招請するということもあった。

 委託をめぐる議論が,直営という図書館の現状維持を求める議論から,将来に向けて図書館を変えていく契機にという方向に進んでいった背景には,経験を伝えあうことで認識を深めていった人々の横のつながりがあったといえる。そのようななか,2009年度の事業仕分けで地域館の民間委託という結論が出された草津市には多くの注目が集まった。ここで委託反対の運動ではなく,もういちど図書館のことを考えようという声をあげた市民の動きには,暮らしと図書館の関わりこそを大切にしたいという,これまで委託について考えてきた多くの人たちの思いが凝縮されていた。図書館懇話会を設置し,市民の意見を聞いたうえで最終決定するとした市の対応は,こうした人々の思いを反映するものだった。

 その懇話会で事務局から出された最終報告の案は,「司書としての専門性を有する根幹的業務」については直営とするが,その他の業務は積極的に外部委託を検討することとなっていた。たまたまこの年,専門職の館長が異動していたこともあって,これでは「司書としての専門性を有しない根幹的業務」となる図書館長も積極的に外部委託するということになってしまいますよとの指摘で報告書は修正されたが,根幹的業務ではないからという理由をつけて,ともかくカウンター業務だけでも委託にもっていきたい事務局の執念を感じさせられる場面でもあった。報告を受けて,それまで草津市には設けられていなかった図書館協議会も設置されることとなった。

 年度末になって草津市が図書館は委託しないとの結論を出すと,同じく事業仕分けで図書館の民間委託を決定していた他市が,間髪を入れずに図書館の直営方針を表明するということもあったが,これは委託の否定が県全体の大きな声になっていることを敏感に感じ取ったことによる判断だった。

 委託問題を語り合うなかで,図書館を利用することで図書館を育てようとしてきた住民の思いが,滋賀の図書館を支えているのだということを再確認させられた。そうした住民が自治体の枠を越えてつながるようになった現在,その広がりをどのように生かしていけるかが次に問われることのようである。

(「抱きしめてBIWAKO」とびわこ学園に関心をもたれた方は,10月出版の高谷清著『重い障害を生きるということ』(岩波新書)をぜひお読み下さい。)

(きしもと たけふみ 理事・京都産業大学)