座標『図書館界』66巻6号 (Mar. 2015)

《座標》『図書館界』66巻6号 (Mar. 2015)


資料組織法教育の理想と現実

松井 純子

 2015年1月下旬,『日本十進分類法(NDC)新訂10版』が日本図書館協会から刊行された。新訂9版の刊行(1995年8月)から20年近くの歳月を要しての誕生である。まずは日本図書館協会分類委員会に対し,改訂にかかる幾多の労へ謝意を表したい。これを契機にNDCのさらなる充実と発展を願う。

 さて,書き出しから一転し,本稿では司書養成における資料組織法教育の現実を述べたいと思う。

 筆者はこれまで,資料組織法関係科目(現行カリキュラムの「情報資源組織論」「情報資源組織演習」)を,司書資格取得を目指す学生を対象に複数の大学で講じてきた。そこで感じるのは,資料組織法の内容や仕組みを学生に理解してもらうことが次第に困難になってきた,ということだ。

 筆者の教え方や受講生のレベルに問題があることは否定しないが,それ以上に,資料組織化に関わる業務,特に目録法の部分が,近年のネットワーク環境の進展にともなって高度化ないし複雑化している,ということがある。筆者の授業では,OPACの仕組みやMARC(書誌データと典拠データ),NACSIS‐CATによる共同目録作業,ネットワーク情報資源の組織化とメタデータなどを講ずるが,目録作業は各種の図書館サービスと異なって学生たちの目に触れないため,具体的な方法や仕組みをイメージすることが難しい。該当事例のWebサイトを紹介しながら説明するが,限られた授業時間では断片的に示すにとどまってしまう。学生からすれば,OPAC構築の裏にこれほど複雑で高度な仕組みがはたらいていることを「意外」と感じる場合が少なくないようだ。

 目録の実務に関わる目録規則についても同様で,NCR1987年版の書誌階層やRDAにおけるFRBRモデルなどは,抽象的で理解しにくいようである。これらの理論にOPACの構築や検索上どんな利点があるのか,具体的な実感を持てないのであろう。

 目録法演習でも,目録規則の複雑さに加え,資料種別ごとの記述作成,書誌レベルごとの記述の書き分けなど,教育内容は増加の一途で,学生たちがつまづく原因となる。それが「見たこともない」カード目録の作成演習であれば,書誌的事項の記録順序や区切り記号法という記述文法の理解とあわせ,ややこしさが倍増する(筆者はカード目録を前提とした演習を避けるためワークシートを使用)。メタデータ作成の演習は筆者の授業では未実施だが,仮に実施すると,やはり学生には難しいものとなろう。

 分類法や件名法についてはというと,NDCの分類体系や補助表のしくみ,BSH第4版の各種細目の使い分けなどは複雑で,決して理解しやすいものではない。特に分類法演習は,主題知識の乏しい学生が資料の主題を適切に把握できなかったり,細目表中に頻出する分類注記に振り回されるため,「難しい」「ややこしい」とこぼす学生が多い。

 このように資料組織法の理解と習得は,その理論や技術の高度化・複雑化により,きわめてハードルが高いものとなっている。これらに十分な理解を促すためには,残念ながら時間が足りない。情報提供機関としての図書館にとって,高度な資料・情報の組織化は不可欠であるが,司書を目指すすべての学生に対し,このような高度な資料組織法教育が必須なのかどうか,一考する余地があると感じる。

 公共図書館の現場では,民間事業者が作成するMARCデータをOPACに取り込むことで,新規受入図書の書誌データを一から作成したり分類記号を付与することはほとんどない(地域資料を除く)。また,分類記号を自館の実情や方針に合わせて付け替えることはあるが,その他の書誌データの手直しはほぼ行われない。つまり,公共図書館で目録法や分類法の専門的な知識・技術を必要とするのはごく一部の専任職員であり,それ以外はMARCデータの作成などを請け負う民間事業者のスタッフに要求されるスキルとなっているのが実情ではないか。

 2~3年後にはFRBRモデルにもとづく新NCRの登場が見込まれる。その時,約30年ぶりに目録法教育の内容が大きく変化するわけだが,ますます高度化する教育内容を従来どおり司書を目指すすべての学生に教授するのか。あるいは基礎レベルと専門レベルに分け,本人の適性と職務上の必要に応じて選択できるような仕組みを考えることも許されるのだろうか。(まつい じゅんこ 理事 大阪芸術大学)

(まつい じゅんこ 理事 大阪芸術大学)