座標『図書館界』68巻4号 (November 2016)

《座標》『図書館界』68巻4号 (November 2016)


共感する力

岸本 岳文

 職場での定期健康診断の結果報告書を受け取ったところ要精密検査の項目があり,かかりつけの診療所に相談に行ってみた。診療所で再検査をした結果「これは専門の医師に診てもらったほうがいいですね」とのことで,紹介状を持って総合病院まで出かける羽目になってしまった。

 おそらく待ち時間に対して診察時間は短いのだろうと思って診察室に入ったのだが,問診では細かなところまで丁寧に尋ねられたうえ,これからの検査の内容と目的をわかりやすく説明してもらえた。問診でのやりとりのなかで私が図書館関係者だとわかると,担当医師が「公共図書館でやっておられる健康医療情報サービスには,私も関わっていたのですよ」と言って,滋賀県の公共図書館が取り組んでいる「がん情報提供事業」のことを話し出された。これは,滋賀県が制定した「がん対策推進計画」のなかに「(がん)相談支援センターは,県民に認知されるよう,市町・県立図書館など公共施設との連携を図り,県民が容易に情報を入手できる場所の拡充を行います。」とあるのを受けて,滋賀県公共図書館協議会と滋賀県のがん相談支援センターが連携して展開している事業のことである。

 図書館に健康医療に関する資料コーナーを設けるとともに,図書館で患者やその家族の方々が直接医療の専門家からアドバイスを受けることのできる相談会や講座などを開催している図書館もある。相談会に訪れる人の数は少ないけれど,病院に足を運ぶことにためらいがあった方からは,図書館だから身構えずに相談に来られてよかったといった声も聞かれるようである。また今年の春には,がんの検査や治療法などの基本的知識から,がん患者の支援団体やがん体験者のコラムなども掲載した『いっと 医療と図書館をつなぐ情報誌』も発行された。

 県民が身近なところで,がんについてのさまざまな情報に接する機会をもつことができるだけでなく,図書館を通じることによって正確で信頼できる情報が伝えられることとあわせて,図書館が蓄積してきたレファレンスの経験が不安を抱える患者や家族からの相談を的確に受け止める役割を果たすだろうとの期待が,私の担当医師にはあるようだ。診察を受けながらの短いやりとりのなかでも,図書館の提供しているサービスへの信頼がこうした期待につながっていることが感じられた。

 一人ひとりの図書館員が積み重ねてきた実践が,ようやく地域のなかでも認められるようになってきたのだろうか。同じようなことは,東近江市立図書館の発行している情報誌『そこら』を手に取った時にも感じたことである。現在3号まで発行されている『そこら』は正確には図書館が発行しているのではなく各号ごとに発行者が変わるかたちで続けられている情報誌である。第2号は地域のNPO法人が,第3号では市役所の総務課が発行者となっている。図書館は情報誌の制作にあたって主に取材や執筆・編集作業を手掛け,発行のための経費を発行者が負担する仕組みである。東近江のこんなこと,こんなものをもっと知って欲しいというとき,こういったテーマで『そこら』を発行できないだろうかと図書館に話が持ち込まれてくるそうである。第3号では市内の古民家に移住してきて暮らす人や古民家を活用したカフェなど,「古民家」に焦点をあてて市役所の職員と図書館員が協力して特集記事をまとめている。市役所職員からは,自分たちだけではこんなふうに多くの人に読んでもらえるものにはできなかったと喜んでもらえたそうである。利用者の必要としているものを的確に把握し,その人にもっともふさわしい情報をそれぞれに適切な方法で提供する。図書館が日常的な貸出しの仕事を通して培い鍛えてきたこうした力が認められ,その力に期待が寄せられるようになってきたともいえる。

 だからこそ,伝えたいことを持っている人たちの,その伝えたい思いに共感する力が図書館には求められているのではないだろうか。患者やその家族に安心してもらいたい。地域の魅力に気づき誇りを持ってほしい。図書館と連携することで,より広くより効果的に伝えたいと考えている人たちの根底にある,そうした伝えなければならないという思いをこそ大切にしなければと思う。

(きしもと たけふみ 理事・京都産業大学文化学部)