座標『図書館界』69巻4号 (November 2017)

《座標》『図書館界』69巻4号 (November 2017)


リテラシー教育の本質

川﨑 千加

  近年,「リテラシー」という言葉が,あちこちで使われている。本来は生きていくために必要な
 基本的な「読み書き能力」であるが,PCリテラシー,ネットリテラシーはもちろん,科学,防災,
 金融,経済,統計,健康リテラシー等々,何でも”リテラシー”が求められている。
  筆者が初年次の情報リテラシー科目を担当して10年になる。その間,多様なリテラシーが登場
 する中,「情報リテラシー」の重要性に対する関心も高まったと思う。そこには,インターネット
 に常時接続されたタブレット端末やスマートフォンの普及といった社会的な情報環境の変化が大き
 く影響している。現在の大学生が小学生の頃には,スマートフォンが普及し始めていた。彼・彼女
 らにとってスマホは最も身近で大切な持ち物で,何でも答えてくれる学習機器でもあり,他者や社
 会と繋がるためになくてはならないものである。
  そうした中,2000年以降には高校生や大学生のレポートのコピペ問題も浮上し,2008年
 にはコピペ発見ソフトが開発されたりもした。2010年以降は国立大の学生のレポートの75%に
 何らかの剽窃が確認されたことや有名私立大学での博士論文の不正による学位の返還などが話題と
 なり,高等教育機関での情報リテラシー教育への関心も急速に高まった。
  また,「大学全入時代」をキーワードに,多様な学生に対応する初年次教育や情報リテラシー教
 育を実施する大学も増加した。震災後の2012年の中教審答申「新たな未来を築くための大学教
 育の質的転換に向けて(答申)」により,“予測困難な時代”に「生涯学び続け,主体的に考える
 力」の育成が求められるようになった。このサブタイトルを見た時には,図書館利用教育が早くか
 ら目指してきた「自立した学習者」の概念にようやく近づいたのか,と感じた。
  非常勤先の大阪の大学には図書館利用教育を基礎とした情報リテラシー科目がある。そして当科
 目は2017年に40周年を迎えた。図書館ガイダンスから情報探索,情報の整理のスキルを学び,
 文献情報に基づいた論文の執筆を行う。各自が決めた自由なテーマについて,図書,雑誌,新聞,
 インターネットなど多様なメディアを使い,調査する。得た情報を精査して引用し,出典表示・注
 記・引用文献リストなどを学術的なスタイルに基づいて記述し,論文を作成する。こうした論文執
 筆の経験を初年次の必修科目としている大学は多くない。
  現在,「情報リテラシー」は多義的に使われており,狭義のリテラシーとしてICTを使う操作的な
 側面と情報倫理に重点を置いた捉え方が一般的であるようだ。図書館利用教育の中で捉えてきた情
 報リテラシーは,どちらかというとICT環境の変化に対応するスキルと共に,情報を批判的に読み解
 き,それらを他者や社会に論理的文脈をもって発信することが目指されてきた。この批判的思考に
 図書館の提供する多様なメディアや情報そのものを活用する力も含まれる。
  その時々のICT技術の変化に対応することは,仕事を得るためのスキル教育として近視眼的に捉え
 られるが,図書館を使い批判的リテラシーを涵養する教育は,個々人がどのような社会的状況にあっ
 ても,より良く生きるための情報の選択ができる思考力を持つことを目指している。そのことは他者
 を尊重し,個人の権利と責任を自覚しつつ,他者と協同して,より良い社会を形成しようとする市民
 リテラシーにもつながるものと言える。
  先の非常勤先大学でのリテラシー科目は,ワープロの時代から現在のe―ラーニングとiPadを使った
 教育まで,情報機器の変化に対応してきた。しかし,この科目が40年も続いてきたのは,社会や環
 境が変化しても変わることがない,本質的なリテラシーの育成をその目的としてきたからだろう。市
 民リテラシーにも繋がる批判的思考は,図書館を使うからこそ得られるリテラシーではないだろうか。

(かわさき ちか 理事・ノートルダム清心女子大学)