座標『図書館界』70巻6号 (March 2019)

《座標》『図書館界』70巻6号 (March 2019)


デジタルアーカイブと大学図書館

赤澤 久弥

 国内の大学図書館では,近年,「デジタルアーカイブ」がトピックになっている。デジタル化された学
術情報の発信については,機関リポジトリによって論文や紀要といった研究成果物を対象にしてきた大学
図書館であるが,ここでは古典籍などのいわゆる貴重資料類を対象とするものを指す。とはいえ,こうし
たデジタルアーカイブは,最近に始まったものではない。90年代半ば以降,大学図書館が「電子図書館」
化を進めるにあたって,デジタル化の主たる対象のひとつにしたのは貴重資料類であり,複数の図書館で,
それぞれにデジタルコレクションが公開されてきた。
 
 一方,昨今のデジタルアーカイブの潮流は,コンテンツを文化資源として位置づけて積極的に活用を図
ることであり,そのため,システムや利用の面でオープンであることが志向されている。また,国の政策
としても,知的財産戦略本部の下に設置されたデジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委
員会によって,国内のデジタルアーカイブを分野横断的に検索し活用に繋げるポータルサイト「ジャパン
サーチ」の検討が進められている。そこでは,欧州のポータルサイト「Europeana」などの先進事例を参
照しつつ,デジタルアーカイブに係るシステム,コンテンツやメタデータ,ライセンスのあり方,そして
持続可能性から活用策などについて,今まさに議論がなされているところである。
 
 ここで大学図書館の視点から,あらためてデジタルアーカイブの状況と課題を概観してみたい。
 
 まず,システムについては,複数のデジタルアーカイブのコンテンツの相互的な利用を可能にする国際
的な公開規格である「IIIF」を実装する図書館が増えてきている。こうした規格の採用が進めば,利用者
がデジタルコレクションごとに異なるインターフェースの利用を強いられる不便が解消されることになる。
しかし,どんなシステムであっても,長期的には陳腐化の可能性を伴う。図書館としては,システムを標
準化しつつ,まずは精度の高いコンテンツを作成し,適切に整理された状態で引き継いでいく必要がある。
 
 ついで,とかく議論になるのが,コンテンツの利用許諾のあり方である。現在,オープンな活用のため
に,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの採用例やパブリックドメインとすることを推奨する意見も
見られる。とはいえ,原資料の所蔵機関として,コンテンツがどのようにどれほど活用されているかの観
点を持つことも必要と思われる。そこで,オープンかつ発展的な活用を企図するにあたり,利用する側の
意識と適切なフィードバックを求めることが当面の策となるだろう。そのためにも,分かりやすくかつ的
確な利用条件を示す必要がある。その際,図書館には従来の方式に絡め取られることなく,自らより望ま
しいあり方を構築していくことが求められる。
 
 そして,デジタルアーカイブを巡る一番の課題は,それを維持していく体制と人材であろう。やや逆説
的になるが,デジタル化されたコンテンツが遍在する時代においてこそ,原資料を所蔵していることは,
図書館の存在意義の根源ともなりえる。しかしながら,これまで図書館員が対象資料に精通していないこ
とを背景に,その利用を過度に制限してしまっていることはなかっただろうか。今後は,資料の位置づけ
を理解した上で,デジタル化する対象を選別したり,多様な活用を図ったりしつつ,デジタルアーカイブ
を維持していくことは一層重要となろう。そこにおいて図書館員は,デジタルコレクションを核にして専
門家や利用者と協働するコーディネイターの役割が期待される。
 
 さて,デジタルアーカイブのコンテンツとなりうる資料は,大学図書館に限らず公立図書館における郷
土資料など,館種を問わず多くが所蔵しているものであろう。また,資料を出来るだけ公開し利用に供す
ることや維持し受け継いでいくこと,そして,組織を越えて連携することなど,図書館のあり方は,もと
よりデジタルアーカイブの方向性と親和性が高い。そこにおいて,図書館は,現在の潮流を踏まえ,あら
ためてデジタルアーカイブへの対し方を考えるときが来ているのではないだろうか。

(あかざわ ひさや 理事・京都大学附属図書館)