座標『図書館界』71巻4号 (November 2019)

《座標》『図書館界』71巻4号 (November 2019)


学校図書館での「図書館の自由」とは購入希望にこたえること?

山口 真也

 7,8年くらい前のことだが,地元(沖縄)の高校の司書の方から,「3.11東日本大震災」での
自衛隊やアメリカ軍の災害救助の活躍を描いた写真集を数冊入れてほしいという購入希望が1人の先生
からあって,もちろん,「図書館の自由」は大切にしたいけれど,出版に意図的なものも感じるし,進
路を決める大事な時期の子どもたちに安易に触れてほしくない資料でもあるので悩んでいる,という相
談を受けたことがあった。その方は定年間近のベテランの学校司書である。戦後,沖縄が長く背負わさ
れてきた歴史を実際に経験されてきた方でもあり,どう返答すればよいかかなり悩んだことを覚えてい
る。

 同じような相談を今年(2019年)の4月頃にも受けた。やはり学校図書館の関係者からの相談だっ
たのだが,書店から取り寄せた『はじめてのはたらくくるま』(講談社ビーシー,2018.11刊)
という図鑑絵本の中に,「自衛隊車がかなり出てきて驚いた」という相談だった。これも3.11の写
真集と同じように,災害救助というはたらきを紹介したものかと思ったのだが,実際に取り寄せてみる
と,表紙にはいきなり自衛隊員がジープに乗って銃を構えている場面が描かれている(が,店頭販売時
にはその部分は帯で隠されている)。全30ページしかないボードブックなのに,5分の1にあたる6
ページを使って戦車やミサイル車などの自衛隊車が次々に登場する。この種の図鑑類は多く出版されて
きたが,“自衛隊の乗り物をここまで意図的に取り上げるものはこれまでにはなかった”“これでは
「はたらく」ではなく「たたかう」だ”という声も耳にした。もちろん,「戦う」ことも「働く」こと
の1つだという解釈もあるだろうが,戦闘機や潜水艦など「くるま」とは言えないものまで多数載って
いることには,強い違和感をもつ人も多いのではないだろうか。

 自衛隊は災害救助のためだけに存在するわけではない。ここまで徹底していれば,冒頭で紹介した災
害救助の活躍だけを紹介した写真集よりも率直なコンセプトであるし,だからこそ本書を子どもに読ま
せたいと考える先生や親がいても不思議ではない。7月22日,講談社ビーシーは「武器としての意味
合いが強い乗り物が掲載されている」という読者からの指摘を受け,今後は「増刷しない」とする声明
を発表したが,この原稿を書いている8月中旬時点でもネット書店では定価で入手可能であり,SNSで
も話題になってきているから,利用者から“読んでみたい”という声も上がるかもしれない。学校図書
館もまた図書館である限り,そうした要求にはこたえるべきだと思うが,賛否があることを知りながら,
購入して棚に並べることだけが,「図書館の自由」のあり方ではないようにも感じてしまう。

 この問いかけへの答えになるかはわからないが,冒頭の相談を受けた後に,私が悩みながらも伝えた
ことをここで紹介してみたい。

 「知る自由を保障すること=蔵書に加えることではないので,選書基準に照らして悩ましい点がある
ならば,購入せずに相互貸借で対応してもいいと思う。ただし,授業などで定期的に使いたいというこ
となら,先生の教育権も考慮しないといけない。もしその本から発せられるメッセージが心配な場合は,
問題点を考えさせるような新聞記事やネットの情報を棚の近くに掲示することもできるし,学校図書館
は司書と利用者との距離が近いから,“私はこの本のこんなところが気になる”と生徒に(その先生に
も)自分の問題意識を率直に伝えながら貸し出してもいいと思う。図書館の自由とは,資料を購入した
り,取り寄せたりして終わるのではなく,図書館のサービス全体で実現していくものだと思う。」

 なお,今回のコラムは,『はじめてのはたらくくるま』への不安が学校図書館や子どもの本の関係者
から寄せられていることをふまえて書いてみたのだが,(現時点で)公共図書館の関係者の間ではあまり
話題になっていない点も気にかかる。利用者との距離が学校図書館とは異なる公共図書館で,本書のよ
うな資料へリクエストがあった場合,あるいは蔵書への批判が起こったときにどう対応するべきなのか。
図書館界全体でしっかり議論する時期が訪れているようにも思う。

(やまぐち しんや 理事・沖縄国際大学)