座標『図書館界』72巻3号 (September 2020)

《座標》『図書館界』72巻3号 (September 2020)


出版不況を自分の変化で読み解くと

川原 亜希世

 司書課程の教員になって今年で24年目になる。出版不況を自分のゼミのテーマにして,10年ほどになるだ
ろうか。日本における出版物の売り上げは1996年にピークを迎えたが,その翌年から売り上げは下がり始め,
今も下がり続けている。図書に比べ,雑誌の売り上げの落ち込みが大きい。1997年,自分が教員になってパ
ソコンを使い始めた頃に出版不況は始まった。振り返ると出版不況の進行が,自分の行動の変化と重なっている
ことを痛感する。

 自分たちは若い頃マニュアル世代と呼ばれていた。マニュアル通りにしか動かない世代,という意味だったが,
何をするにも本や雑誌といったマニュアルが必要となるくらい,親世代と違う生活をしている世代のことでもあ
ると自分は考えていた。就職して『日経ウーマン』を買い,結婚準備のために『ゼクシィ』を買い,家を建てる時
には『ハウジング』を買った。妊娠すれば『たまごクラブ』,出産すれば『ひよこクラブ』を買った。だがしばら
くすると,働く母親である自分が買いたいと思う雑誌が見つからなくなっていた。

 電子書籍ブームの2010年から数年後,書店の店頭で目にとまった電子書籍専用端末Lideoを買った。使って
みると当時長距離通勤だった身にとって,文庫本よりも軽くて薄い端末で本が読め,いつでも本が買えることは
ありがたかった。電子書籍を買うようになると,書店に行かなくなった。以前から仕事で必要な本は大学生協に
インターネットで注文して買っていた。5年前に職場の大学の近くへ移る際に,家にあった本をブックオフに売
った。手元に残した本は少なかったが,その後ほとんど増えていない。

 ゼミのテーマを出版不況に決めた時,司書課程と所属する学部(商経科)の中間にあるテーマであり,携帯電
話を手放さない学生たちにとって身近なテーマだと考えた。しかし間もなく,出版不況は学生よりも自分にとっ
て,より身近なテーマだと気づいた。出版物の売り上げがピークだった頃,私は書店があれば立ち寄るのが習慣
だった。日常的に本や雑誌から情報を収集し,それを生活に役立てていた。ところがパソコンで情報を収集し,
電子書籍を読むようになると,書店に行かなくなった。やがてスマートフォンを持つようになると,Lideoは使わ
なくなった。タブレット端末も試してみたが結局,メールチェックも情報収集も読書もスマートフォンで済ませ
るようになっていた。

 『スマートメディア』の中で,中村滋は2007年にiPhoneが発売されたときの驚きを次のように述べている。
「テレビやラジオの番組も,新聞や雑誌の記事や読み物も,さらには映画や音楽もゲームも株も天気予報も……
ありとあらゆる情報が,この小型の携帯端末に入ってしまう。つまり,もう個別に情報端末や媒体を持たなくて
いい時代が始まる。」1)

 この春,コロナ禍のなかでオンライン授業が始まった。教員は自宅や研究室で一人パソコンに向かい,学生たち
とつながっている。私は学生の数だけ印刷して配っていたプリントの代わりに,PDFファイルを送信している。電
子書籍を読む人間が,今まで大量に紙の印刷物を作っていたことに気づき,おかしかった。司書課程の学生には電
子書籍よりも紙の本がいいという者も多い。私が送信した教材は,学生たちにプリントアウトされているのだろう
か。

注
1)中村滋『スマートメディア:新聞・テレビ・雑誌の次のかたちを考える』デコ,2010,p.157.

(かわはら あきよ 理事・近畿大学)