報告 第54回(2012年度)

第54回(2013年度)研究大会全体報告

2013年3月3~4日
於:同志社大学・新町キャンパス臨光館R205番教室

日本図書館研究会

第1日目 / 第2日目 / 若干のまとめ
→ 開催案内(スケジュール表等)


*詳細報告は、『図書館界』65巻2号に掲載しています。

  参加者数は,研究大会が延べ148名,交流会が71名であった。同志社大学により,会場提供,案内看板配置など,多大の便宜を図っていただいた。

第1日目の概要(参加者129名)

〈個人研究発表〉

司会:渡邉斉志,赤澤久弥(研究委員)

1. 石橋進一(同志社女子大学嘱託講師)
「公立図書館の評価指標に関する考察と提言:「登録」に係わる数字を中心に」

 図書館は「貸出」の数値を前面におき自己評価してきた(貸出密度)。また「登録」を重視している(登録率,実質貸出密度)。「貸出」は館界では図書館評価の重要基準である。だが類似施設にないこの要素が「2割程度の住民の利用しかない」と逆用されるおそれがある(参考:「NAEAベンチマークモデル」)。
 類似施設同様,来館者数を基礎に評価すると「市民の半数近くが年1度は図書館を訪れている」と印象が上がるであろう。JLAは,『日本の図書館:統計と名簿』に「来館者数」の欄を持つが算出法は不明である。この数値化に『JIS図書館統計』の「実利用者数」の「注記」を活用すべきことを提示する。
 貸出に関しネットアクセスがより本格化すると,図書館サービスの拠点としての施設の利用は,重要な把握ポイントとなる。明確な定義の設定を建てることが必要と述べた。

2. 藤井兼芳(大阪府立中之島図書館),中道厚子(大阪大谷大学)
「「図書館協議会」という法規定を活かす:活動実態把握の試みと活性化に向けた検討」

 なぜ今,図書館協議会-それは2011年「地域の自主性及び自立性を高め,改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」などで,生涯学習社会の情報拠点としての役割を期待される図書館が,住民と協働する場と考えるところにある。
 この図書館協議会(以下,協議会)の現実を把握し活性化策を検討するのが当発表の本旨である。
 「図書館法」案説明(1950年)で住民の声を活かすよう図られた協議会であるが,法では「おくことができる」機関となり,委員は教育委員会が選び,図書館長の諮問に答えるという“なくてもよい”機関と化している。設置は地方公共団体の半数程度にとどまっている。
 「設置」を対象に,下記の軸で評価を試みた。
 (1)設置,非設置(設置すべきである)。
 (2)HP等で存在,役割を広報しているか。
 (3)予告(傍聴を可能化)しているか。
 (4)議事録を公開しているか。
 (5)公募も含め広く民意の反映を図っているか。
 (6)年度の活動目標,成果を公表しているか。
 (7)委員の研修等,判断材料を提供しているか。
 (8)委員が発言しやすいよう配慮されているか。
 公開報告書,HPを渉猟し,大阪府下を中心に委員,傍聴体験をそれに重ねて,分析・評価した。協議会再評価の重要素材であり,詳細な一覧表を含め,本誌,HP上等での公表が望まれる。

3. 高鍬裕樹(大阪教育大学)
「利用記録の秘密性に関する考察:プライバシーが保護するものは何か」

 「図書館の自由に関する宣言」1979年改訂第3[項]は「読書事実[等]を外部に漏らさない」と規定する。ただその理由は「プライバシーに属すること」にあるとされるに止まる。当発表は,利用記録の秘密性保護義務の理由を法哲学的に解明し,上記「宣言」を補う秘密保護の方法を提示する。
 プライバシーの権利は社会的掣肘の外側の権利であり,ゆえに社会の枠組みを変革できる力である。その点でプライバシーを保護することは社会変革の可能性を担保することに他ならない。これの侵害は,個人のみならず,社会の変革可能性をも傷つける。
 読書は誰からも監視される心配のないところで行われてこそ社会変革の可能性を育む。こうした自由権の保障義務が,図書館が利用者の読書記録の秘密性の遵守に関わる理由である。
 一方近年,個人情報を財産権的に解し,「積極的に提供」して利益を得ることを肯定する動きがある。事業者が個人情報を取得し,多面に関連情報と結合し付加価値を追求する。個人と事業者間の認識を相対して検討する必要がある。事業者は十分に説明を行うことが求められる。欧州評議会や米国の連邦取引委員会の2012年の報告では消費者情報の収集と活用に対し制限を設定するよう注意がなされている。
 図書館の利用情報を利活用する動きが見られるなか,上記委員会の対策は参考となる。

4. 久野和子(愛知学泉短期大学)
「場としての図書館(“Library as place”):その歴史的展開と研究方法」

 サービス提供,アクセス保障,プライバシー保護が図書館の基本的価値とされてきたなか,21世紀に至り,物理的な公共の「場」として果たしうる図書館の役割や発展的機能が再評価されつつある。本研究発表では,アメリカにおける先行研究をもとに,「場としての図書館」の価値について史的考究を軸に考察する。具体的には以下のとおりである。 〈1960年代以前の「場」としての図書館〉
 アメリカの図書館情報学研究者W. ウィーガンドの批判的歴史研究上の実証的事例を考察する。
〈1960年代以降の「場」としての図書館〉
○相対的な「場」の価値の低下:アクセスの保障,1970年代からはプライバシーの保護が図書館の重要な価値とされたことで「場」の価値が相対的に低下した。
○公共の「場」としての価値の低下:R. パットナムは,アメリカ社会で1970年代から人々が公共の場などに気軽に集い,交流する習慣が衰退したことを調査,証明した。発表者も,人と人との繋がり(社会関係資本)の減退,図書館における「場」の機能の低下が社会の変化を招くと考える。
〈21世紀,「場」としての価値の見直し〉
○社会関係資本の創出:図書館が社会関係資本の創出の「場」とする実証的研究が出現した。
○「第三の場」としての図書館の機能:R. オールデンバーグが提唱した「第三の場」は,近年,効果的な社会関係資本の構築の場として多様な価値を生み出す。
○相対的な「場」の価値の上昇:急激な情報環境の変化の中で,図書館の伝統的な価値が揺らぎ,公共の「場」としての価値が相対的に上昇したことも指摘しておく。
 以上,その研究方法について提言する。

〈グループ研究発表〉

司会:田村俊明,村林麻紀(研究委員)

1.「マルチメディアと図書館」研究グループ(川瀬綾子,村上泰子,北 克一)
「情報環境生態系の変容と次世代図書館システム」

 電子書籍と図書館活動の変化を検討した結果,根底にコンテンツの媒体となるメディアの史的経緯が絡んでいることを把握した。コンテンツは,異なるメディアの配送路ネットワークへ再編され,一大コンテンツ産業群となっている。これを情報環境生態系の変容と位置づけ,各種機関の経営,運営について,環境,ビジネスモデル,課金・決済,コンテンツ流通等の面で把握し,情報環境生態系においての図書館の役割と,次世代情報システムを考察する。
○情報環境:2012年夏以降,多様な情報環境が誕生した。時代は,据え置き型PCから,モバイルデバイスへ移行している。「解」はクラウド・サーバーとウェブ・アプリの組合せである。クラウド環境下,データ転送速度が最大の問題で,ローカルシステムとの棲み分けを要する。
○オープン・プラットフォーム技術:マークアップ言語HTML5,スタイルシートCSS3,プログラミングJavascriptの組み合わせである。
○戦略モデル:かつての通信キャリアによる垂直統合モデル(NTTドコモのiモードサービスなど)から,現在は,統合配信プラットホーム(情報環境生態系)を構築している。とくに下記のものをとりあげ詳述した。
アップル,グーグル,マイクロソフト,アマゾン,新登場(フェイスブック,ソーシャル・ゲーム等)
○利便さと個人情報の相克関係:デジタル・コンテンツの消費行動は「所有」から「利用」へ向かい,ユーザーの個人情報は蓄積される。個人情報が,利便性とトレードオフにされている。
○図書館の機能,役割:このような情報環境の変容下において,図書館の機能,役割はなにか。国際的な連携・協力体制へ進む必要,MLA連携などの課題があるとした。

2.オーラルヒストリー研究グループ(石川敬史,大岩桂子)
「千葉県立中央図書館「ひかり号」関係資料の分析:1940-1950年代を中心に」

 千葉県立中央図書館移動図書館「ひかり号」について,昨年度の発表後,40箱に及ぶ資料を整理し,「ひかり号」関係資料リストを完成した。今回はこの報告だが,まとめた巡回日誌に沿ってその映画会活動を追究する。その内容をもとに,「ひかり号」が「日本人の心を西側諸国につなぐ」ことを目指した占領軍,CIE映画の映写を基礎とした点を明示する。
 1948年文部次官は下記の方針を“通牒”している。
(1)各地方公共団体社会教育課に視聴覚教育係設置
(2)視聴覚教育係は地区民事部の監督を受ける
(3)各都道府県立図書館に視聴覚ライブラリー設置
(4)視聴覚教育係長は上映月次を報告する
 占領軍払い下げトラック,同軍貸出の16ミリナトコ(National Companyの略称)映写機を使用した「ひかり号」は,紛れもなく占領軍の施策に負っていた。
 一方,巡回日誌をみると,内容はCIE映画よりも劇場映画中心の傾向にあった。利用者が喜ぶものを選択し「図書との関連を失わないように留意」したこの映画会は,移動図書館の利用を誘導する手段だった。
 占領軍の情報宣伝活動を超えた若い館員の活動が,農山漁村に「文化の灯を」の期待を背負い,着実に地域住民と図書館を繋いだと評価したい。さらに今後,CIE側の資料の分析,社会教育課との連携や利用者の反応などの調査が必要であるとした。

3.情報組織化研究グループ(松井純子)
「ISBD統合版の研究:改訂内容の検討とその意義」

 ICCP(パリ原則)とともに,40年以上,目録作成の基盤(枠組み)となったISBD(国際標準書誌記述)に関し2011年7月Consolidated Edition(統合版)が編まれ,資料種別ごとに在った7種類のISBDが一つに統合された。これについて紹介,分析する。
 日本で,これの研究は活発でない。だが「国際目録原則覚書」(ICP)の「5.書誌記述」は結論的にISBDに立脚し,RDAもISBDの基本的枠組みを維持している。ISBDは今後も国際標準である。
 統合版は全資料種別に共通の規則で,資料種別ごとの記述ではない。ただし個々のエレメントの規則条項では特定の資料種別のための規則や例外規則が示される。
 エリアに関しては旧8エリアに加え,エリア0:内容形式と機器タイプ(Content form and media type)エリアを新設して9エリアとした。従来のエリア1(タイトルと責任表示エリア)の第2エレメントGMD(一般資料表示)に関し整理,再配置したものである。
 このエリア0の新設は,「目録利用者のニーズに適した資料の識別と選択を支援するため,資料の内容を表現する基本的形式と,内容を伝達するために使用される機器のタイプを記述の冒頭に表示する」ことを図るものである。だがGMDの早期予告手段が逆効果になるおそれもあると考えられる。

4.図書館サービス研究グループ(立花明彦)
「科目〈図書館サービス特論〉における障害者サービス論の展開についての検討」

 新省令科目「図書館サービス特論」の誕生で,これに「障害者サービス論」を充てて授業展開することが可能となった。これは公共図書館における障害者サービスの推進と普及に益すると大変注目される。本研究は,関係シラバス(主にネット上に公開されているもの)を調査・分析する。併せて,その課題をも検討する。
 まず「図書館サービス特論」を開講する大学を把握し,「障害者サービス論」の採用如何を調査した。次に,公共図書館において現在実践されている障害者サービスの実態と関連文献から基本項目を抽出し,障害者サービス論シラバスと比較検討,考察した。
 大学で開講されている「図書館サービス特論」シラバスには,「利用者」として「図書館サービスに障害のある人」への認識が乏しいものが見られる。
 JLAは「児童サービスを重視し2単位としたことに見合った他のサービス論の充実が必要である。(中略)障害者サービスなど特定層を対象としたサービス論の充実の方向を示すべきである」(2009年1月26日)と検討を求めたが開講状況への反映は弱い。
 (1)図書館サービスの意義とその理解
 (2)「障害者」を通し図書館利用の全面を構築
 (3)障害者サービスの向上は全利用者に有益
 以上3点に絞る。障害者サービスは発展途上で,今後の方策を練る力を養う教育のために,必要と考える講義要目,項目要素を下記にあげる。
 (1)障害者サービスの理念,(2)障害者サービスの対象者とは,(3)障害者サービスの発展過程,(4)障害者サービスを支える法律,(5)障害者サービスの手法,(6)障害者サービスのための資料,(7)障害者サービスのための設備・読書補助機器,(8)障害者サービスのPR。以上を元に,開講大学4校のシラバスは,この基本的要素と概ね一致するとした。
 今後「障害者サービス論」の開設大学が増えること,その内容がさらに向上することを期待したい。

5.児童・YA図書館サービス研究グループ(中西美季,井上靖代,日置将之,平田満子)
「「児童サービス論」養成実態調査3」

 今般の省令改正で表記科目は「児童(乳幼児からヤングアダルトまで)を対象に,発達と学習における読書の役割,年齢層別サービス,絵本・物語等の資料,読み聞かせ,学校との協力等について解説し,必要に応じて演習を行う」となり2単位に倍増した。
 1999年,2010年と調査(「調査1」,「調査2」)を実施したが,省令科目2009年改正後の対応を見るため,2012年6月,214校対象(100%回収)の「調査3」を行い分析した。今回の報告がそれである。
 科目変更(並行)期であり多面的な結果が出た。
 司書課程内他科目との複合化が7講座(「調査2」では14講座),司書教諭課程「読書と豊かな人間性」科目との重複化が15講座(同10講座)あった。残り85.6%は単独科目である(「調査2」で90%)。
 以上の視点から単位数と授業回数の関係を見る。
 複合科目では,授業回数は不足の状況がある。
 「調査1」では,単独科目15回授業相当が79%であったのに対し,「調査2」では44.9%と大後退していた。「調査3」では165講座,76.4%である。
 「必要に応じて演習を行う」とされているため,54講座(25%)は「児童サービス論」に演習を含めている。この場合,比較的多い授業回数が必要となる。
 このシラバスで増加しているレファレンス,YAサービス,乳幼児サービス,学校図書館の4項目の表示のない大学が30講座だった。逆にこの4点すべてを挙げているものがある。「児童サービス論」科目は,資料論,サービス論,経営論,資料組織,レファレンス等1科目で司書養成科目すべてを教えるに等しい。他の科目との連携が求められる。「調査1」「調査2」で講師の分野専門性,大学教員資質に疑問を指摘したが,今調査でも改善が認められない。
 「児童サービス論」教育の軽視は,日本の公共図書館の基幹業務である児童サービス,さらには公共図書館活動に影響をもたらす。改善を課題とした。


〈図書館研究奨励賞〉

久野和子氏「‘第三の場’としての学校図書館」(本誌63巻4号)に授賞(65巻1号p.80,山本順一担当理事による選評を参照)。

〈会務報告〉

事務局長 前田章夫

〈交流会〉

於・同志社大学室町キャンパス寒梅館


第2日目の概要(参加者110名)

《シンポジウム》「ネットワーク時代の図書館とプライバシー:なぜ守る?どう守る?」

 〈テーマ設定の趣旨〉(本誌65巻2号 p.90参照)
 近年個人情報を「ビッグデータ」として活用する動きがある。だが,プライバシー遵守を基本とする図書館は,このことに慎重でなければならない。
 図書館利用に関わるプライバシーは,なぜ守られてきたのか。社会的にどのような意味を持つのか。
 近来,プライバシー意識に変化が生じているのか。
 電子ネットワーク環境下においてどのように,守り,取り扱うべきか。多面的に議論,検討された。
 なお前田勝之氏(なんとか株式会社)は九州で大学講師をも務め,同地の図書館問題に造詣が深いが,情報セキュリティに基点を置いてご論述いただいた。

発表 9:35~12:25
司会:南 亮一,前川敦子(研究委員)・フロアマネジャー:阪上宏一(研究委員)
山本順一(桃山学院大学)
「図書館利用者のプライバシーの法的保護:歴史的視点から」
前田勝之(なんとか株式会社)
「図書館における個人情報/プライバシー情報の取り扱い:情報セキュリティの視点から」
高野一枝(元・図書館システムベンダー勤務)
「図書館システムとプライバシー:ベンダーの視点から」
新  出(白河市立図書館)
  「公共図書館の「利用」とプライバシー:図書館職員の視点から」

〈討 議〉13:40~16:30(途中休憩を含む)
司会:前川敦子(研究委員)・フロアマネジャー:南 亮一(研究委員)
 各発表者の講演,討議の詳細は,本稿に続き,特集記事として本誌p.90以下に,掲載している。


【参加者の感想(アンケート)】

(本誌65巻2号 p.88~89参照)


[若干のまとめ]

 天候に恵まれ交通の便もよい会だった。原田隆史会員を中心とする同志社の方々の案内(掲示・学生プラカード),会場,茶菓のご提供などに感謝したい。
 個人発表4件。「多い」と批判も出た。グループ発表申出の出足が遅く,他方粒のそろった個人研究を落とし難いという事情があった。
 制限時間の遵守に苦しい発表が1,2あった。この「時間厳守」は,発表者側がこれまで深刻,重大と受けとめていなかった要件かもしれない。また研究委員会が厳命できなかったと反省も強い。参会者は,この点に最大の批判を投じた。予稿の精査,発表行動の予習,司会者の熟達が肝要である。
 発表持ち時間は質問時間を含め経験値として安定しており,発表者側の適応と委員会側の調節に属する。個人発表は最大3本とすべきことは原則。今般は時間帯もあり,特例とした。
 シンポジウムは評価を得た。メンバーも良かった。ただ,今回の議論を後に継承しなければならない。なお指摘が出された時間配分にも今後留意を要する。
 最後に大会参加者,会場関係者に感謝しつつ,やや詳細な統計数字を記しておきたい。

参加者統計
 公共図書館員の割合が多いことが目立った。
●締切最終日までの事前申込:129名
一 般 88名
発表者 16名
理事・研究委員 25名
●発表者,役員を除く参加者(88名)内訳
公共図書館 30名(34%)
学校図書館 6名(7%)
大学図書館 12名(14%)
専門・国会図書館 1名(1%)
研究者 32名(36%)
学生・院生 1名(1%)
その他・不明 6名(7%)

(文責:志保田務)