2001年度図書館研究奨励賞について

図書館研究奨励賞選考委員会
委員長 伊藤昭治


 2001年度図書館研究奨励賞には,薬師院はるみ氏が書かれた『司書をめぐる専門職論の再検討』(図書館界52巻4~5号)を推すことに決めました。

 司書をめぐる専門職論議は,図書館界や図書館研究のなかで行われてきました。司書の専門性を確立したいという意図からであり,それが司書の身分保障や待遇改善への期待と結びついていました。そのためほどんどの文献はそうした関心を視野に入れて書かれてきました。例えば外国における司書養成教育の紹介にしても,日本の専門職養成に示唆を与えるという意図からでした。これは何ら非難すべきことではありません。
 薬師院はるみ氏の今回の論文は,実践的な関心をいちおう脇において,諸文献に見られる論議それ自体を総体的に分析するといった試みであります。一見すると膨大な文献を広くあさり,それを整理した文献レビューのように見えますが,単なる文献レビューにおさまらないのは明らかです。

 薬師院氏は前にも『図書館界』に「主体形成過程の一領域としてみた公共図書館」という論文を書いています。これはアメリカ公共図書館における目的観を題材に公共図書館が主体形成の機序に関わる機関であることを示唆しようとしたものでした。今回の論文も,扱っている主題は異なっていますが,その視点と方法は一貫しております。
 すなわち図書館界における言説の分析に際して,キーとなる主題と,それにまつわる思想や主張を網羅的に取り出し,それを長いタイムスパンをとって検討するという方法です。
 そのことで,ある主題に関する主題の底に流れる要素を抽出する。そしてそうした要素の特徴や限界を指摘したものです。
 この論文もこうした視点と方法を用いることで,図書館界での専門職論の特徴や限界を明確に浮きぼりにしています。
 前著をふくめ,薬師院氏の論文は,図書館現象を純粋な基礎理論研究の対象としてとらえることが可能であることを意味しております。すなわち図書館界が生みだす現象に注目し,その現象自体を分析する研究の重要性を指摘しています。こうした性格を有するだけに,この論文は一見すると実践に役立たないように思われるかもしれないが,実践をふり返り,実践を構築する場合に欠かせない作業であり,そうした意味では大いに実践的な論文であるとも評価できます。

 問題点としては,執筆者はかなりの社会学および哲学の背景や知見を持つと思われるが,それが十分に論文のなかに現れておらず,それがものたりない,また収集する文献の網羅性と専門職論での言説や主張の網羅性について検討する余地があるのではないか。読後,現在の職員論・専門職問題の解決策を期待するむきには,消化不良の感がまぬがれなかったようである。こうした問題点があるものの,本論文は図書館研究奨励賞に十分に値するものと判断した。薬師院氏の今後の研究を期待しております。

 この図書館研究奨励賞は研究者だけを対象にしたものではありません。「学」をはずして,図書館研究としているのは,実践研究を期待してのことです。最近どちらかといえば,研究者の受賞がつづいていますが,実務者も実践研究も対象であることを知っていただき,『図書館界』に投稿願いたいと思っております。

(この報告は『図書館界』54巻1号に掲載)