2003年度図書館研究奨励賞について

図書館研究奨励賞選考委員会
委員長 伊藤昭治


 今年度(2003年度)の奨励賞は,『図書館界』55巻1号に掲載された前田稔氏の論文,「学校図書館蔵書の除去をめぐる裁判の核心-表現の自由と思想の自由」を奨励賞佳作に推すことに決めました。

 この論文は,アメリカにおける学校図書館蔵書の除去をめぐる合衆国裁判所判決を網羅的に調査して,18判決を抽出,整理,分析し,その中核となる問題を提起したものです。

 前田氏はこの論文の冒頭で判決の要旨を紹介し,歴史的分析を行っています。すなわち除去に対して日常性を強調して司法介入を肯定するプレジデンツ型と,思想の自由を重視するミナーシニィ型に各判決は分裂し,そのため判決統一に向け最高裁判所が受理したものの,ここでも裁判官の意見分裂により,見解は確定していないと分析しています。
 そこで前田氏はこの論文において,従来は表現の自由の理論で説明されてきた「図書館の自由」について,思想の自由を基点とすべきであると結論づけています。従来の図書館の自由論では,知る権利を基点に説明がなされてきたものの,知る権利自体の源流である思想の自由を基点にすべきという前田氏の主張は,「図書館の自由」の根拠を築く素地を広く提供したといえます。

 このテーマについては,選考委員でもある川崎良孝が研究している分野でもあり,彼の評価を聞くと以下のような問題点もあるということなので紹介しておきたいと思います。

  1. この論文では単に思想の自由を基点とした「図書館の自由」の説明を求めているに過ぎず,具体的な説明までは言及していない。その点で問題提起の枠を出ていない。
  2. 前田氏はこれまでパブリック・フォーラムを研究していたが,それと学校図書館との関係が不明確である。
  3. アメリカにおける法律雑誌などには,かなりの数の論文,すなわち各判決を取り上げた個別実証的論文があり,そうした論文の検討が不十分である。
  4. 日本との関連に触れれば,思想の自由をきめる日本国憲法19条について,従来の憲法学は「絶対的」規定と解釈してきた。この規定についての前田氏のスタンスが今後は問われることにもなるだろう。

 このように問題点,および課題は多いものの,今後研究の展開の方向を模索,提示し,その礎石となる論文であることは間違いありません。
 選考委員会では全員,前田氏の本論文について評価し,図書館研究奨励賞佳作に相当すると判断しました。
 以上報告します。

 前田氏の今後の研究を期待しています。

(この報告は『図書館界』56巻1号に掲載)