2009年度図書館研究奨励賞について

受賞者:中山愛理氏(茨城女子短期大学)

図書館研究奨励賞選考委員会


 2009年度の奨励賞の選考については,本会機関誌『図書館界』の59巻4号(2007年11月発行)から61巻1号(2009年5月発行)に掲載された7本の論文を対象に選考を進めました。5人の選考委員が密室の審議を行うというブラックボックスの選考過程をあらため,機関誌の61巻4号(2009年11月)に対象論文を提示したうえで,会員からの理由を付した自薦・他薦をお願いしました。透明度の高い,民主主義的で開かれた選考過程を心がけました。

 今回の選考委員は,川崎良孝,塩見昇,志保田務,松井純子,山本順一の5名です。対象論文を吟味し,その意見を集約し,今回の図書館研究奨励賞は,機関誌の60巻4号(2008年11月発行)に掲載された中山愛理さんの「19世紀後半のアメリカにおける巡回文庫の導入:州図書館法と実態の検討に基づいて」と題する論稿に対して差し上げることにしました。選考過程で委員の意見は割れることなく,会員からの推薦の意見と結果をともにしたことは,まずは妥当な選考だったと確信しております。

 中山さんのこの論文は,後に中山さんの筑波大学に提出された学位論文の中核を構成するものとなりました。中山さんは,対象論文にも引用・参照されていますように,論文作成の過程でみずから現地に赴き,関係する多くの一次史料を収集されました。「あたりまえだ」といわれるのは簡単ですが,インターネットにでも上げられている資料ならともかく(最近は非常に多くの貴重な資料がデジタル化されネットにあげられているのはご承知の通りです),諸外国とは異なり,経済的にも精神的にも恵まれない院生生活の中で,渡米し足でかせがれ,訪れた関係機関の担当者と連絡を重ね,得られたこれらの貴重な資料を用いてアメリカの巡回文庫を取扱った説得力のあるこの論文は,これまでM.デューイと巡回文庫の関係を取り扱ったいくつかの論稿を除き,とりあげられたことがほとんどなかったオリジナリティのある内容です。先進的な各州の巡回文庫をめぐる関係立法を手がかりに,アメリカにおける巡回文庫の普及,充実・整備のプロセスを具体的に検討しています。郵便制度や当時の物流システムを利用してはじまったパッケージの巡回文庫,馬車からはじまり進化を遂げた移動図書館の歴史は,この論文で取り上げられた19世紀後半の巡回文庫を含むいわゆる‘エクステンション・サービス’の展開過程と見ることができ,著者の考えでは20世紀後半のアウトリーチサービスにもつながる図書館サービスの拡大の端緒と位置づけられており,一定の説得力を持つように思えます。文章に生硬なところがあり,論理構成にも荒削りなところがうかがえないわけではありませんが,これまでの図書館研究奨励賞を受賞した先輩たちと同様,将来性を感じさせます。今後の一層の努力に期待いたします。ちなみに,会員からの授賞推薦のご意見にも同様の趣旨が示されていました。

 なお,昨年度と同様,2010年度の図書館研究奨励賞の選考もまた会員参加の公開のプロセスで実施いたします。2008年11月号(60巻4号)から,今後刊行される2010年9月号(62巻3号)までの『図書館界』に掲載された論文等を対象とする予定です。会員各位が図書館研究奨励賞を差し上げたいと思われる論文等につき,ご自分の氏名を明記した上で,その理由を添えて当委員会宛に推薦のご意見をお寄せください(自薦を含みます)。特に様式はありません。締切は,本年12月28日(火)といたします。昨年度にもまして,会員のご意見を十分に参酌し,透明度の高い図書館研究奨励賞選考過程を実現いたします。ご協力ください。

(文責:山本順一 桃山学院大学)

(この報告は『図書館界』62巻1号に掲載)