2011年度 第8回国際図書館学セミナー報告 

第8回国際図書館学セミナー報告

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1.はじめに

 2000年10月に上海市図書館学会と日本図書館研究会とが締結した学術交流協定に基づき開催されるこの国際セミナーも,今回で8回目を迎えた。3年目の調整期間を含めて交互に開催されているところ,2010年8月には中国で開催された(本誌62巻4号を参照)ことから,今回は日本での開催となったものである。

2.セミナーの内容

 今回のテーマは,「図書館というスペースを考える」であった。これは,1990年代後半からの図書館を取り巻く環境の大きな変化の中,図書館というスペースをめぐる検討や新たな実践が行われている状況を踏まえたものである。このテーマに沿って,日中あわせて6本の発表とパネルディスカッションが行われた。なお,今回のセミナーでは,日本側の発言(フロアからの発言を含む)は京都大学大学院教育学研究科の李霞氏が,上海側の発言は上海図書館読者サービスセンターの鮑延明氏が,それぞれの通訳を担当した。

 これらの報告の具体的な内容については,発表者による発表内容の原稿をご参照いただくこととし,以下では各発表内容の概略と質疑応答,パネルディスカッションの内容を中心に報告する。

 なお,今回のセミナーの参加者は,好天に恵まれなかったにもかかわらず,発表者を含み62人(1日目54人,2日目のみ8人)と,前回(2008:大阪)の50人を上回り,盛況であった。


第1日:11月5日(土曜日)

 この日は,午後1時からの開始であった。この日の司会は,前回までのこのセミナーの担当理事であった,木下みゆき研究委員が務めた。
 最初に,志保田務研究委員会委員長から開会宣言があり,今回のセミナーの開催経緯を簡単に紹介したのち,訪日団を歓迎する旨の発言があった。
 その後,日本側を代表して川崎良孝日図研理事長から,上海側を代表して張奇上海図書館協力・指導センター長から,それぞれ開会挨拶があった。
川崎氏の挨拶は,訪中して本セミナーのテーマ選定打合せを行ったさなかに東日本大震災が起こり,上海の新聞では震災一色になっていたことから開催が危ぶまれたが,上海側が例年通りの対応をしてくれたために開催できたことの紹介と,今回のテーマについては,従来のような片道伝達を超えたものにしたかったことから,双方の対話の地ならしとなる基礎的な研究となるようなものを選んだとの内容であった。
張氏の挨拶は,今回のテーマに沿って上海図書館の現場での実例についての発表を行うこと,これについてのコメントを期待するという内容であった。

発表1

「上海図書館における情報共有空間の実践」
張 奇
(上海図書館協力・指導センター長)

 まず,「情報共有空間」の概念についての呉建中上海図書館長と任樹懐上海師範大学図書館副館長の説を紹介した上で,これらの実践として展開する「ネット学習室」,「マルチメディア新聞閲覧室」,「情報共有空間討論室」および「新技術体験センター」の4つのサービスを紹介した。そして,これらの実践を通じ,「情報共有空間の全体的計画を重視する」,「リアル空間の相互連動を推進する」,「バーチャルコミュニティの建設をスタートさせる」,そして「情報共有空間のポータルの建設を強化する」の4つの提案をしたい,と締めくくった。

発表2

「21世紀の公共図書館をデザインする:デンマークにおける公共図書館というスペース」
吉田 右子
(筑波大学図書館情報メディア系)

 デンマークの生活の特徴の紹介の後,公共図書館の特徴につき,高齢者のアクセスを考えた平屋建て,おしゃべり可(静寂室あり),飲食自由,外光の取り入れ,多彩なプログラムの開催などを取り上げ,スライドを使って具体的な紹介があった。また,メディアをめぐる社会動向を素早く察知してのウェブサイト閲覧サービスの追加,カフェの併設,コンピュータゲームの配置,若者の図書館の利用傾向,エスニックマイノリティへのサービス,「学習の場としての図書館」という考え方の再認識が起こっていることなどの紹介があった。

発表3

「科学技術の革新に手を差し伸べる:上海図書館の特許情報サービスを中心として」
顧 震宇
(上海図書館情報研究所主任研究員)

 上海図書館の主要なサービスの一つである,特許情報サービスについての紹介がなされた。上海図書館では1980年代から特許情報サービスを実施しており,近年特に評判が高いとの説明があった後,最初に,同館が展開する特許情報サービスである,「学習訓練」,「相互交流」,「ネットサービス」および「コンサルティングサービス」の4つのサービスについての紹介があった。次に同館が「情報研究の牽引」という側面から実施する,外部から受託しての特許情報に関係する調査研究活動と,館員による特許情報に関する論文や著書の執筆の支援活動の紹介があった。最後に,これらを支える基礎となる,人材・ツール・資金投入についての紹介があった。

発表4

「21世紀の図書館の国際的協力活動をデザインする:国立国会図書館における日中韓の国立図書館の相互連携」
南 亮一
(国立国会図書館関西館)

 最初に国立国会図書館が中国国家図書館および韓国国立中央図書館との間で行っている業務交流についての全体的な説明を行い,中国・韓国との交流の概要についての説明を行った。その後,2007年から3館で進められている電子図書館機能に関する相互連携活動の経緯を説明した上で,現在のところの成果である,国立国会図書館サーチにおける自動翻訳機能と2010年10月21日に第1回が開催された「日中韓電子図書館イニシアティブ会議」の,それぞれの概要について紹介した。

質疑応答

 以上の4つの発表ののち,1日目の発表内容に対する質疑応答の時間が取られた。概要は以下のとおりである。なお,回答者はいずれも張奇氏であった。

  • 質問:情報共有空間を使うための審査はどの程度まで踏み込むのか。また,フィードバックはどこまで利用者が書くことになるのか。
  • 回答:審査内容は,カードが有効かと予約時間が塞がっていないか,どういう設備を使うか,設備が空いているかどうかというもの。フィードバックの内容は,利用満足度である。
  • 質問:同じ時間帯で複数の要求が重なったときの優先順位の決定はどのようにするのか。
  • 回答:まず順番で決める。それで決まらなかったら調整を行う。
  • 質問:「レファレンス機能がある利用者カード」とは何か。
  • 回答:上海図書館の利用者カードには4種類ある。「貸出利用カード」が中国語の資料しか貸出できないのに対し,「レファレンス貸出カード」は,上海図書館のすべての資料(外国語資料を含む)の貸出ができる。「レファレンス貸出カード」は発行の際に1,000元(約12,500円)の保証金を出してもらうことになっているので,高額な電子ブックリーダーも貸出対象にもなっている。
  • 質問:「情報共有空間討論室」のところに出てくる「館員」,「ITサポーター」,「サイトレファレンス相談員」の役割についてご教示いただきたい。
  • 回答:レファレンスサービスはまず第一線の図書館員が対応する。サイトレファレンスはベテランのレファレンス相談員が対応するが,答えられなければサイトレファレンス相談員(上海図書館のレファレンス相談員,各大学・専門機構の専門家から組織)が対応している。それぞれの回答について別のサイトレファレンス相談員が追加回答することもできる。これらの実績に基づいてサイトレファレンス相談員の査定を行っている。

交流会

 1日目の日程終了後の午後5時30分から2時間,会場近くにある「レストラン しらん」(芝蘭会館別館1階)において交流会を開催した。参加者は38名であった。セミナーに引き続き,木下みゆき研究委員が交流会の司会を務めた。研究委員長による乾杯唱和の後,交流会が始まり,木下委員の絶妙の采配により,交流会にまつわるエピソードのスピーチが多くの参加者から行われたこともあり,最後まで盛況であった。


第2日:11月6日(日曜日)

 この日は,午前10時15分からの開始であった。この日の司会は,午前中は日置将之研究委員が,午後は寒川登研究委員が,それぞれ務めた。

発表5

「上海図書館における「上海市中心図書館」及び「上海の窓」サービスの調査報告」
鮑 延明
(上海図書館読書サービスセンター)

 上海図書館の「上海の窓」制度と上海市中心図書館制度につき,以下のとおり説明があった。  「上海の窓」は,上海図書館が世界各地の図書館に設置しているコーナー(日本では大阪府立中央図書館に設置)であると同時に,資料の相互交換を行う仕組みである。「上海市中心図書館」制度とは,近隣に所在する区・県立図書館や大学図書館,専門図書館などを,その所属を変えずに「分館」として機能させる制度であり,通用利用者カード,ナレッジマネジメントシステム,児童青少年サービスにおいて機能している。その後,「上海市中心図書館」制度の問題点とその対策,今後の展開についての説明があった。

発表6

「21世紀の図書館の枠組みを考える:歴史的な展開と21世紀の状況」
川崎 良孝
(京都大学大学院教育学研究科)

 1枚の図をもとに,公立図書館を理解する枠組みである「情報へのアクセスの保障」と「プライバシーの保護」という2本柱が,21世紀を境目に揺らいで来ていることと,このような状況を打破する動きとして,最近出て来た様々なサービス(コーヒーハウス,コミュニティ,Library2.0など)が展開されているのではないか,という見解と,今後は「参加」と「共有」が重要となるが,明暗がある,という状況について説明があった。

質疑応答

 午後はシンポジウムを行うこととなっていたが,その前に各発表に対する質疑応答の時間が設けられた。以下,質疑応答の概要を紹介する。

●張奇氏への質問

  • 質問:上海図書館の「市民の情報リテラシーの学習の場」への図書館員の関わり方について。
  • 回答:30年の歴史がある市民講座を週2回開催している。社会,政治,経済,文化などの講座がある。また,1996年からネット学習室で市民対象の情報リテラシー教室を開講している。最近はこの教室は新技術体験センターに移った。

●吉田右子氏への質問

  • 質問:市民相談センターにおける税務・医療・法律・学習支援の相談は,誰が担当しているのか。
  • 回答:図書館外の専門職である。司書はオーガナイズする役である。なお,健康相談は,看護師や助産師が定期的に図書館を巡回して実施している。
  • 質問:北欧の図書館が実施しているサービスで日本に取り入れた方がよいと思うものは何か。
  • 回答:日本でもほとんど取り入れられているので思いつかない。ただ,デンマークでは少々お行儀が悪くても許されているので,そのあたりか。
  • 質問:北欧における心身障害者向けサービスを具体的に説明いただきたい。
  • 回答:デイジーの普及などを中心にあらゆることが行われている。読み上げデータを自前で用意していない中小新聞については,図書館が録<音資料にして提供している。
  • 質問:館外で住民に交流の場を作り出すアウトリーチサービスは行われているのか。
  • 回答:基本的なものは行われているが,特徴的なものは思いつかない。
  • 質問:デンマークでは,最初から図書館でおしゃべりや飲食をしても大丈夫という状況だったのか。ゲームに対するアレルギーについてはどうか。
  • 回答:時代を経て変わって来たことははっきり言える。ゲームについては,子どもの中で不平等が生じてはならないというのが重要な理由であるが,メディアをすべて図書館で受け入れるという原則があり,コンピュータゲームもそのままメディアの一つとして受け入れられている。

●顧震宇氏への質問

  • 質問:(上海図書館の特許情報サービスのうちの「相互交流」のところで紹介されている「特許管理局特許文献部と一緒に新しい分類法の作成について検討した」とある)「新しい分類法」につき,図書の分類法と何らかの共通性を持つのか,また,どのように活用しているのか。
  • 回答:現在の中国の特許分類法であるJPCが大雑把な類目しかないので,その改善を検討しているということであり,図書の分類法とは直接関係ない。また,新分類法はまだ活用されていない。

●南亮一氏への質問

  • 質問:国立国会図書館サーチに多言語機能を追加したことにつき,中国や韓国との統合ポータルサイトに付けるという計画はあるのか。
  • 回答:統合ポータルサイトについては,韓国国立中央図書館から「アジアの目」というシステムの開設が提案されている程度であり,これからのところである。
  • 質問:OSは何を使っているのか。
  • 回答:確かUNIXベースだったと思われる。
  • 質問(張氏):統合検索の仕組みは書誌のハーベスティングによるのか,横断検索によるのか。
  • 回答:両方あるが,韓国国立中央図書館については確か横断検索によるものだったかと思う。
  • 質問(顧氏):構築されたデータベースはどのように維持しているのか。更新頻度はどうか。翻訳検索の対象はキーワードか,それとも全文か。
  • 回答:差分更新を行っている。それほど長い間隔は空けていないかと思う。また,資料全文データは持っていないので,キーワード検索を行っている。

●鮑延明氏への質問

  • 質問:「上海の窓」への展示図書は誰が決めるのか。
  • 回答:各館に委ねている。
  • 質問:ナレッジマネジメントシステムの「利用者活動の予告」とは。
  • 回答:利用者が自主的に開催するイベントを知らせる機能である。
  • 質問:「少年児童「通用利用者カード」業務の全員展開」の「全員展開」とは。
  • 回答:すべての中心図書館制度加入館で少年児童活動を展開するということである。

シンポジウム:「図書館というスペースを考える」

 寒川登研究委員の司会によりシンポジウムが行われ,時間の都合上,パネル・フロア関係なく,意見を出してもらうこととなった。
 最初に川崎氏から,対立軸同士の対話がほぼ無い状況で対話の状況を作るためには原理原則の確立が必要という意見が出された。そして,川崎氏の質問を受けて張氏が,上海図書館が上海市中心図書館制度により経済格差による情報格差の是正の働きをしたことの紹介と,上海の電子書籍ビューアの説明をした。またフロアからの質問を受け,鮑氏が,「上海の窓」の電子版の可能性につき著作権の問題があり難しいと説明した。
 その後フロアの2氏から,吉田氏の発表を踏まえたコメントが述べられた後,すでに発言した川崎氏を除く5氏からコメントが出された。
 吉田氏からは,北欧の図書館は,「人間相互の文化的共有の場」ということを打ち出しているように,新しいことを立ち止まらないで行ってゆくという姿勢が揺るぎないことの紹介があった。
 南氏からは,図書館は映画館とよく立ち位置が似ている,わざわざ行かなくても情報享受できる中,アメニティなどそこでしか得られないものを求めに行く場として,インターネットと二極分化するのではないかとのコメントが出された。
 鮑氏からは,日中での考えていることが違うこと,中国ではプライバシーはそれほど重視しない,コーヒーや雑談は考えられない,中国は新しいイノベーションの促進を重視する,このセミナーで日本のような考えも促進されるかもしれない,とのコメントが出された。
 張氏からは,図書館が1つの場として存在することは共通認識であること,図書館側として利用者に行き届いたサービスを届けることが大事で,次回のセミナーでこのような面も対話できれば,との期待が述べられた。
 最後に顧氏からは,IT革命によって読者のリテラシー能力が高まっている中,図書館がより突っ込んだサービスの提供を考える必要があるとのコメントが述べられた。

 時間の都合上,15時20分になって,志保田研究委員長から閉会のあいさつがあり,閉会となった。

おわりに

 2日間とも天候に恵まれなかったが,会場では活発な発表や意見交換がなされ,盛況に終わった。これを実現できたのはひとえに会場に集まって下さった多くの皆様であり,また,2日間にわたってすばらしい通訳をしてくださった,上海図書館の鮑氏と京都大学の李氏,遠路はるばるお越しくださった上海図書館の方々のおかげである。感謝申し上げる次第である。また,事前準備の大半を行っていただいた京都大学関係者の皆様にも改めて感謝申し上げる。

 このセミナーは,図書館・図書館学についての諸側面について相互理解を深めることを目的とし,3年間を1つの周期として,その間に日中双方で1回ずつ開することとしている。2010年度は中国・杭州図書館にて開催されていることから,2012年は開催せず,これで1つのサイクルが終了となる。2001年10月の第1回のセミナー開催から10年余,2013年度からは5度目の3年サイクルが始まることになる。今後も,これまでの蓄積を踏まえたうえで,相互理解が深まるような活動を行っていきたいと考える。

(文責:南 亮一 理事・国立国会図書館関西館)