2012年度図書館研究奨励賞について

受賞者:久野和子氏

図書館研究奨励賞選考委員会

(川崎良孝,塩見昇,志保田務,山本順一,渡邊隆弘)


 この日本図書館研究会が毎年度‘若手研究者’に差し上げる図書館研究奨励賞は,日本の図書館情報学の世界において,由緒正しく,権威ある賞の一つです。この賞は,本会理事長を務められた故・森耕一先生が寄せられた基金をもとに1990年度よりはじめられたものです。森先生はもともとは物理学の勉強をされたのですが,やがて大阪市立図書館で働かれるようになり,本会の整理業務に関する研究グループで大活躍され,後に京都大学教育学部教授になられたのです(定年退職後は光華女子大学で教鞭をとられました)。本奨励賞は,過去2年の間に本会の機関誌『図書館界』に掲載された論文等の中から,主として若手の研究者・実務家の手になる優れた著作に対して贈られるものです。

 今年度は,『図書館界』の2010年11月号(62巻4号)から2012年9月号(64巻3号)に掲載された,当初は11本の「論文」「現場からの提言」を対象としました。会員からは2件の推薦がありました。慎重審議を重ね,選考委員会のメンバー5人の意見が一致して,「‘第三の場’としての学校図書館」(63巻4号p.296-313)を書かれた久野和子さんに差し上げることになりました。

 この選考委員の議論の中で分かったことの一つをお伝えしておきますと,研究成果の中身も大切ですが,体裁もまた大切だということです。久野さんの論文は後にふれますように中身が評価されたわけですが,しっかりと内外の関係業績に目配りがきいていたということと,論文らしい重厚な体裁もまた好印象を与えたのです。理系の論文に稀に見られるようですが,型破りな構成で破天荒な言い回しをしていても,新たな自然の摂理を解明していれば素晴らしいということにはならないようです(今回はそのようなものはありませんでした)。

 構成・内容ともに評価された久野さんは,京都大学教育学研究科を修了され,現在は愛知学泉短期大学の講師を務められ,すでに高等教育機関に安定した職を得られてはいますが,図書館情報学の研究に取り組むようになられてから6年ということで,生活年齢は別として,十分に‘若手’の範疇に入るものと判断されました。

 現在の人間生活を振り返れば,かなり多くが見事悲惨なまでに崩壊した家庭を‘第一の場’,非正規職員が搾取され不当な労働力商品取引が広く行われている職場を‘第二の場’とすれば,それらを代償補完する癒しの‘第三の場’が求められているのは確かです。曲解すればオールデンバーグらがいう「第三の場」概念というのは,そのようなものと理解できる余地もありそうです。久野さんの論文は,学校図書館が「第三の場」としての役割と機能を果たしうる可能性を探ろうとするもので,道具概念として利用された「第三の場」「場としての図書館」はアメリカで論じられたものですが,久野さんはそれらを丹念に論究されています。日本における塩見昇先生の「ひろば」機能の考察などの先行研究にもきちんと触れられています。道具概念とされた「第三の場」がもたらす個人的利益,社会的効用を丁寧に整理されています。その上で,大阪府立生野高校の図書企画実行委員会に関する調査を通じて,この活動とそれが生み出した成果の中に学校図書館が「第三の場」たりうるとの検証が試みられています。この大阪府有数の進学校である生野高校の調査・検討を通して,学校図書館総体の「第三の場」検証とされたところについては,選考委員の大半が「これはちょっとやりすぎ。無理かも」と思ったように感じています。しかし,多くの文献を読み込んだだけでなく,実査を織り込み,これだけの論文に仕上げた力量は選考委員の全員が認めました。

 久野さん,おめでとうございます。今後の成果に大きな期待を寄せています。

(文責:山本順一 桃山学院大学)

(この報告は『図書館界』65巻1号に掲載)