2013年度図書館研究奨励賞授賞報告

受賞論文
 福井祐介氏「図書館の倫理的価値の展開と限界:価値の対立における倫理的枠組み」
 上原樹代氏「実質的転換期にある学校図書館:東京都荒川区の学校図書館施策と区立中学校図書館の取り組み」

図書館研究奨励賞選考委員会

(川崎良孝,塩見昇,志保田務,高鍬裕樹,前川敦子)


 日本図書館研究会が20年以上にわたって毎年度授賞している「図書館研究奨励賞」では,今般2013年度の選考対象を『図書館界』63巻4号(2011年11月号)から65巻3号(2013年9月号)掲載の論文,または‘現場からの提言’とした。
 この期間の関係論考は16本。いずれも秀作であるが,若手研究者の奨励との筋で選考した結果,選考委員の全員一致で下記2作を受賞と決定した。
 *福井佑介(京都大学大学院教育学研究科後期博士課程)「図書館の倫理的価値の展開と限界:価値の対立における倫理的枠組み」(本誌64巻6号)
 *上原樹代(東京都荒川区立第六日暮里小学校)「実質的転換期にある学校図書館:東京都荒川区の学校図書館施策と区立中学校図書館の取り組み」(本誌65巻1号) 

 福井論文から講評する。概要は次のとおりである。
 「図書館を取り巻く社会環境や,図書館情報学を取り巻く学問の状況を鑑みれば,図書館の価値と外部の価値との関係性を論じる枠組みの必要性が…ある。」(同論文,著者抄録から)
 氏は,図書館(学)が外域との関係を明確にするためには「図書館の価値」の提示が必須であるとして,その「価値の判断」を軸に倫理を据えた。
 「倫理とは,遵守すべき規範,「原則」だがこれと衝突する事態,「例外」との枠組みを通して「価値」として作用する…。」(同論文,第1章から)
 この規範例として同氏は,論議が盛んでないJLA「図書館員の倫理綱領」(1980年,「倫理綱領」)を採りあげる。また同「図書館の自由に関する宣言」(1954年,「自由宣言」)に源流と同義性を認める。自由宣言では利用者の知る自由が原則であり,図書館員が裏に回っている。自由宣言は1979年改訂において「図書館」が主語となり,翌1980年,「図書館員」を主語とする倫理綱領が策定されたという。しかし,この倫理綱領には専門職性追求の複流が存在しており,その分離に解決の鍵があるとする。
 氏が希求するのは,図書館(学)と外域との関係を明確にするための図書館の価値,倫理を把握するための史的,現状分析的追求である。しかしその理論枠にあてはまる既成の実像が図書館界にはなく,この形成が著者のような清新な力にかかっていることをも示した,優れた萌芽的研究といえる。
 次に,上原論文について講評する。
 国の振興策に応え,さらにそれを活性化・展開した荒川区の学校図書館政策の近年数年の動きを,現場の中学校司書として身をもって実践した筆者(投稿前に小学校へ転勤)が克明にまとめ,記したものである。これを塩見昇の学校図書館理論“学校図書館活動および図書館教育”の理論枠に昇華せしめて整理し,上記荒川区の政策と学校現場における成果の源が専任職員の配置にあることを確認した。専門図書館,大学図書館,青年海外協力隊等の経験をも元に,館界新規の論文とした。多少の構文上の稚拙はあるものの,学校司書の法制化を主眼に法改正が画される今日の時代的要請にも繋がると評することができよう。

 この賞は,森耕一本研究会元理事長が,文部大臣表彰による社会教育功労金を寄せた200万円をもとに1990年度に始まり,爾後多々寄付が積もって1000万円余の基金となっている。2名授賞の原資はある。なお,本誌64巻4号で公募した推薦への応募はなかった。受賞資格保有(新進性)の主張を含め,ぜひともご意見をお寄せいただきたい。

(文責:志保田務)

(この報告は『図書館界』66巻1号に掲載)