2014年度 国際図書館学セミナー報告

国際図書館学セミナー報告

第10回日中国際図書館学セミナー 第一線の読者・利用者サービスを考える

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日 程:2014年10月18日(土)~19日(日)
会 場:京都大学文学部新館第1講義室
テーマ:第一線の読者・利用者サービスを考える
発表者:リュウ 燕(上海図書館)
    小澤 弘太(国立国会図書館)
    章 騫(上海図書館)
    山本 順一(桃山学院大学)
    石橋 進一(同志社女子大学)
    徐 宏宇(上海図書館)
    川崎 良孝(京都大学)
    前田 章夫(日本図書館研究会)
通 訳:章 騫(上海図書館) 
    李 霞(プール学院大学短期大学部)

はじめに
 2000年10月に上海市図書館学会と日本図書館研究会とが締結した学術交流協定に基づき開催される
この国際セミナーも,今回で10回目を迎えた。3年目の調整期間を含めて交互に開催されているところ,
2013年11月には中国で開催された
(本誌65巻5号参照)ことから,今回は日本での開催となったものである。日本での開催は2011年度
以来3年ぶりとなる。

セミナーの内容
 今回は,「第一線の読者・利用者サービスを考える」というテーマとした。これは,2011年度の
国際図書館学セミナー
に引き続き,1990年代後半からの図書館の取り巻く環境の大きな変化への対応を取り扱うものである。
今回は,第一線の具体的な新しいサービスや問題点を報告いただくことで,国際的な対話を進めたい
という趣旨からのものである。
 このセミナーでは,テーマに沿って,日中あわせて7本の発表とシンポジウムが行われた。
なお,今回のセミナーでは,日本側の発言(フロアからの発言を含む)についてはプール学院大学
短期大学部の李霞氏が,上海側の発言については上海図書館購入編目センターの章騫氏が,
それぞれの通訳を担当した。
 これらの報告の具体的な内容については,次号掲載予定の発表者による発表内容の原稿を
ご参照いただくこととし,以下では各発表内容の概略と質疑応答,パネルディスカッションの
内容を中心に報告する。
 なお,今回のセミナーの参加者は,発表者を含み63人(1日目51人,2日目53人)と盛況であった。
 以下,発表のタイトルはプログラム記載のものであり,発表者の所属等は当時のものを示した。

第1日:10月18日(土曜日)
 この日は午後1時からの開始であった。この日の司会は,木下みゆき研究委員が務めた。
 最初に,前川敦子研究委員長から開会宣言があり,今回のセミナーの開催経緯を簡単に紹介ののち,
訪日団を歓迎する旨の発言があった。
 その後,日本側を代表して川崎理事長が,上海側を代表して燕上海図書館読者サービス・センター長
からそれぞれ開会挨拶があった。

《発表1》
「新技術をベースとした図書館サービスの探索:上海図書館を例にして」
 リュウ 燕(上海図書館読者サービス・センター長)
 上海図書館において2009年以降取り組まれている「デジタル読書サービス」についての紹介がなされた。
すなわち,2009年からの「新読書サービス」のねらいと概要,電子書籍端末貸出サービスの概要を
紹介したのち,これらのサービスの導入により図書館スタッフは新たな知識や技術の習得や,チーム全体
としてサービスを作っていくことが求められると指摘した。

《発表2》
「国立国会図書館サーチの最新動向」
 小澤 弘太(国立国会図書館)
 国立国会図書館が提供する情報探索システム「国立国会図書館サーチ」(NDLサーチ)の概要につき,
その検索対象および機能を中心に説明した。その後,NDLサーチの課題およびそれへの対応として,
計画的な連携の拡張のための連携拡張計画を策定していること,APIの利活用のため,パンフレット作成
・ハッカソン等のイベント開催・API利用者コミュニティ形成,OAI‐PMHの性能改善,メタデータの二次利用
のラインセンスの整備に取り組むことを説明した。

《発表3》
「中国の図書館及び社会教育」
 章  騫(上海図書館購入編目センター)
 中国における社会教育の発展について概説した。すなわち,改革開放により社会教育機能が復活し,
発展期を迎えるが,資金不足による有料制導入により情報格差が広がった。しかし,物質的生活の改善
の後で文化教育への高い要求があり,これに応じて無料サービスの普及に至った。さらに21世紀には
学習型図書館という構想が登場し,実践段階にある,という流れである。その後,上海図書館における
学習型図書館の実践例として,公衆を対象とする大型講座の開講,「創新空間」の設置,「街道図書館」
の実践例の紹介がなされた。

《発表4》
「アメリカの公立図書館のひとつのイメージ:コミュニティに寄り添う図書館」
 山本 順一(桃山学院大学)
 最初に,公共図書館の役割は,潜在的能力と自助努力を前提として機会均等な人間的な成長を支援する
ところにあるとした上で,米国図書館協会が掲げる「図書館が生活を変える」という標語を紹介し,
その実例として,発表者が1年間滞在していた米国アリゾナ州ピマカウンティの公立図書館の取組の中から,
宿題支援,就職支援,市民権取得支援を紹介した。また,地域の経済発展への公共図書館の貢献の一例
として,コロラド州ダグラスカウンティのパーカーダウンタウンにおける,コミュニティレファレンスを
紹介し,コミュニティに寄り添ったサービスをするためには顔が見えるサービスが必要,と締めくくった。

質疑応答
 以上の4つの発表ののち,1日目の発表内容に対する質疑応答の時間が取られた。
概要は以下のとおりである。なお,回答者は燕氏である。

質問:「新読書体験」という言葉があったのが新鮮であった。どういう仕組みか。
回答:新車を購入する前に試乗するのと同じことであり,図書館が電子書籍の試用の場と
なっているものである。
なお,電子書籍の保証金は,中国製のものであれば日本円で100円であり,
iPadだったら1,000円である。

交流会
 第一日目の日程終了後の午後5時30分から会場近くにある「レストランしらん」(芝蘭会館別館1階)
において交流会を開催した。参加者は38名であった。
 交流会の司会は,前回同様,前国際交流担当理事の木下みゆき研究委員が務めた。川崎理事長による
あいさつの後,国際交流担当理事を長らく勤められた渡辺信一氏による乾杯唱和が行われた。
前回同様,木下委員の絶妙の采配により,交流会にまつわるエピソードのスピーチが多くの参加者から
行われたこともあり,最後まで盛況であった。

交流会の様子

第2日:10月19日(日曜日)
 この日は,午前10時からの開始であった。この日の司会は,午前中が昨日に引き続き
木下みゆき研究委員が,午後は木下研究委員に加えて家禰淳一研究委員が,それぞれ務めた。

《発表5》
「枚方市立図書館の「利用」は減少に転じたのか?」
 石橋 進一(同志社女子大学)
 枚方市立図書館の貸出冊数が2009年をピークに減少に転じており,他の指標も予約件数を除きいずれも
減少していることを説明した。そして,新規登録者数が大幅に減少しているのに貸出冊数等が1割減に
留まっていることにつき,コアな利用者と全く利用しない市民とに二極分化しているのであれば,
よい現象ではないとした。
 また,1年に1度でも貸出サービスを利用している人が約2割であることは,残りの8割が図書館を
利用していないとすり替えられるおそれがあることから,財政や行革担当者に対する予算充当の必要性の
説得が困難となる状況となっているとし,そのための処方箋は持ち合わせていないが,来館しない市民の
利用調査や,利用者懇談会の開催,パブリックライブラリーの大切な原則の市民への説明が重要であるとした。

《発表6》
「上海におけるモバイル図書館サービスの発展の現状と需要」
 徐 宏宇(上海図書館情報諮問研究センター)
 川崎 良孝(京都大学大学院)
 はじめに中国のモバイル図書館サービス(電子書籍による図書館サービス)の歴史を概観したのち,
上海エリアのモバイル図書館サービスについて詳細に説明し,iPadを貸し出してから貸出数が伸びたこと,
リーダーの購入方式が購入によること,コンテンツの購入方法が固定,ハイブリッド,利用者主導型の
3つあること,貸出方法がリーダーごととコンテンツのみの2つあること等を紹介した。最後に課題として,
普及率の向上,クライアントプログラムの統合,利用傾向を把握してそれをサービスに行かすことを挙げた。

《発表7》
「日本の公共図書館における障害者への図書館サービスの現状と課題」
 前田 章夫(日本図書館研究会)
 最初に日本の公共図書館における障害者ヘの図書館サービスの歴史について説明した上で,実践を
積み重ねていく中で,障害者サービスは身体障害者へのサービスではないこと,障害は障害者にでは
なく図書館にこそある,すなわち障害者サービスとは「図書館利用に障害のある人へのサービス」である,
という重要な理念に行き着いたとした。また,1981年の国際障害者年から1990年の米障害者法に至る流れで,
障害当事者が見聞を広め,権利獲得を目指すようになり,2006年の障害者権利条約につながったとした。
 そして,現在の障害者サービスの状況につき,国立国会図書館の調査をもとに説明し,DAISYの出現と
「サピエ」や国立国会図書館の「視覚障害者等用データ配信システム」のサービス開始までの流れなど
についても紹介した。
 最後に,すべての住民ヘのサービスを標榜する公共図書館は図書館サービスを求めるあらゆる障害者を
住民の1人として認識して対応すべき,現状は「不作為による人権侵害」であると指摘した。


シンポジウム
 「第一線の読者・利用者サービスを考える」
 木下みゆき研究委員の司会によりシンポジウムが行われ,はじめに,発表者から発表の補足を出して
もらうこととなった。  
リュウ氏からは,上海図書館は本日発表したデジタルリーダーとモバイルリーダー以外のサービス,
例えば視覚障害者サービも行っているとの発言があった。
 小澤氏からは,改修課題として,日本のMLAのメタデータの連携を増やすこととAPIのプロモーション
を増やすことで1億のメタデータの活用を図る必要があることが挙げられた。
 章氏からは,石橋氏の挙げた予算についての危機意識につき,法制度上のもろさからより強く
共感している旨の発言があった。
 山本氏からは,モデルとしたはずの米国の公共図書館と日本の公共図書館との差異があることと,
今後の展開について,誰にでも用意することができる電子書籍への切り替えが進むことから,
ライブラリアンは館外に出て利用者やコミュニティのニーズへの対応,すなわちコミュニティに
寄り添うことが必要と受け止められているとの指摘があった。
 石橋氏からは,大切なものを守るためには外に図書館職員が出るべきであるとし,そのためには
経営企画のための能力と情報通信をする技術が必要とすること,また,財政担当者の考え方,体質,
手法を取り込んで行く能力が必要であるとの指摘があった。
 徐氏からは,モバイル図書館サービスの狙いは機器の貸出だけではなく,利用者が機器の取扱いや
使う習慣を身につけることや読書経験をすることにあるとの補足がされた。
 前田氏からは,障害者権利条約の要求をクリアするために図書館がなすべきこととして,障害(者)
をよく知ること,障害の種別や程度,障害者手帳の有無にかかわらずサービス展開が必要なこと,
障害者サービスを担当者任せにせず図書館全体のサービスとして行わなければならないことを挙げ,
各図書館で障害者と話をして何を求めているかを尋ねる努力から始めなければならないと
考えるとの発言があった。
 続いて質疑応答に移り,以下のようなやりとりがあった。なお,質問者ごとに質問をまとめたため,
時系列順に並んでいないことにつき,ご留意いただきたい。

〈リュウ氏への質問〉
質問:利用者の権利宣言については中国ではどのように考えられているのか。また,利用者に十分
知られていないサービスについてどのように周知しているのかについても知りたい。
回答:中国の図書館協会が2008年に出した北京宣言において,中国全体の利用者のニーズに応じた
サービス提供が求められている。上海図書館では,研究職の館長になってから重視されていったのは,
本を中心とする図書館から人を中心とする図書館に転換することである。モバイル図書館サービスは
図書館が都市の教室という機能を果たすとともに,障害者の情報格差を埋める役割を果たしている。
 上海図書館には様々なプログラムがあるが,昔はプログラムのチケットをプリントして置いて
おいたのを,今では様々な媒体を通じて配布できるようになり,発表開始から20~30分で全部取られた
こともあった。また,中国の教育委員会と連携して学生に図書館の利用法を教えており,図書館利用
の予備軍になるものと期待している。

質問:前田さんのところで,障害者サービスについて,障害者自身が図書館の使い方を知らない状況を
放置するのは図書館の不作為責任という言及があったが,どの立場で誰が周知をするかについて,
日常化することが大事と考える。社会教育として図書館をどう考えるかは,図書館のことをどう
伝えるかにつながる。そこで,中国の図書館利用を人権として捉えることをどう意識しているかに
ついてお話いただければ。
回答:2009年に障害者サービスをテーマに開かれた会議で,障害者連合会が上海図書館の看板の隣に
障害者図書館の看板を掛けるよう要望したことがあり,これを受けて障害者の図書館の利用に関する
方策を立案し,全中国の連合会の理事長が調査を行った結果,中国全土に障害者が図書館をもっと
利用しようというキャンペーンを行った。中国には様々な施設があり,このような理念がすべての
住民に図書館利用の機会を平等に与えているのである。

質問:障害者差別解消法に取り組むにあたり,「障害者」の表記の改善に取り組むべき。
本来「障碍」と書くものであるというように。
回答:中国人の立場からは「害」と「碍」では与える印象が全く異なる。「碍」は便利さが
欠けるイメージで,「害」は被害を与えているイメージである。

質問:差別解消法への対応を授業で行うに当たり,きちんと対応しておかないと訴訟になる,
分かりやすく説明しないと裁判になる。我々の大学でも,「がい」はひらがなか「碍」を使う。
山本:米国では,ネイティブアメリカン自身は「アメリカインディアン」と呼んでくれと言っている。
意識が違うのではないか。
前田:表記の問題については,団体ごとに考えが違う。2012年に内閣府の障害者制度改革推進会議で
検討されたときも,かなり突っ込んだ討議になったが,結論は出なかった。現段階では,どの言葉を
つかってもよく,他の団体が使う表記に異論を挟まないということになっている。私は「害」を
使っているが,被「害」を受けている人として「障害者」という言葉を使っている。
表記は自覚的に行う必要がある。

〈徐氏への質問〉
質問:基本的な確認だが,スマートフォン向けの表示画面がないときはPC向けの画面が表示される
ということは日本と同じか。また,モバイル図書館サービスを行う図書館はどれくらいあるのか。
回答:PC用とスマートフォン・携帯電話用の2種類ある。上海ではスマートフォンに対応した図書館は
3つであり,PC対応はほぼすべてのレベルの図書館すべてにある。

質問:日本の場合はスマートフォン対応でなくてもPC向けサイトをスマートフォンでみることができる。
中国でもPC向けサイトをスマートフォンで表示できるのかを確認したかった。
回答:中国でも当然スマートフォンでPCサイトが閲覧できるが,見るのが辛いので,スマートフォン用
サイトを作った。

 最後にパネリストから,次のとおり一言ずつコメントがあった。
 
リュウ:図書館は街の教室という理念である。
小澤:ライブラリアンは,ユーザもシステムも分かっていなければならない。世の中では標準化が
進んでおり,それにより様々な労力を削ることができ,多様な利用者へのサービスに対応するため
リソースが確保できる。それによりユーザへの多様なサービスを生み出されればと思う。
山本:遅かれ早かれ日本の図書館でも電子書籍や電子ジャーナルがメインとなる。そうすると著作権が
大きな問題となる。米国では印刷物のときはファーストセール・ドクトリンでクリアできたが,
マルチメディアデジタルコンテンツはライセンスにより利用するため,権利がくっついてくる。
そうすると米国では多くの図書館コンテンツが替わったり,著作権が障害となったり,有料制に
なったりということが言われている。日本の図書館も,著作権をどう考えているかを考えて
おかなければならない。図書館概論で著作権ともっと向き合わなければならない。
 
リュウ:中国では著作権の問題が出てこなかったが,これからは自覚を持たなければならないと考える。
石橋:枚方市役所の企画課というところに2年間いて,横に財政課,情報推進課があり,上には秘書課が
あった。ときどき図書館の話題が出て,図書館の存在は誰も否定できず,必要性もわかっていて,
むしろいらだっていた。図書館の連中は何をやっているのだ,と。何を言いたいかというと,
デジタル化・ネットワーク化の時代に入り,図書館インフラはむしろ脚光を浴びる時代になって
きたのではないか,ということである。
徐:技術発展が早いので,本日紹介されたものはもうじき消えてしまうのではないか。近い将来
もっと進んでいる技術が出てくるのではないか。未来の図書館を想像すればもっと若さを保てる
のではないか。利用者に新しい技術を提供するとともに,司書も共に発展して恩恵を受けなければ
ならないと考える。
前田:資料を知り,利用者を結びつけるのが職員の役割と言われてきた。しかし,障害者サービスに
関しては,いずれも未成熟のまま今日に至っている。よく考えてみると,ビジネス支援サービスも
地域支援サービスも,結びつけることをきちんとやってこなかったのではないか。基本に立ち返る
ことが重要ではないかと考える。私自身は,公共図書館は社会的なリハビリテーション機関では
ないかと考えている。この考えは40年ほど前に塩見先生が提唱したものだが,私自身ずっと考えて
いることである。このことをもう一度考えていかなければならないのではないかと思っている。
章:図書館員も伝道の精神を持たなければならないと思う。

おわりに
 会場では2日間にわたって活発な発表や意見交換がなされ,盛況に終わった。
これを実現できたのはひとえに会場に集まって下さった多くの皆様であり,また,2日間にわたって
すばらしい通訳をしてくださった,上海図書館の章氏とプール学院大学の李氏,遠路はるばる
お越しくださった上海図書館の方々のおかげである。感謝申し上げる次第である。
また,事前準備の大半を行っていただいた京都大学の関係者の皆様と当研究会研究委員会
の皆様にも改めて感謝申し上げる。

(文責:南亮一 理事・国立国会図書館関西館)